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美咲は親同士が仲が良くて、赤ちゃんの時から一緒にいた幼馴染だ。
八歳の夏休み、僕たちは他の友達三人も一緒に近所の神社でかくれんぼをしていた。
僕と美咲はたまたま近くに隠れていて、鬼に見つかりそうになった。
「僕、別の所に移動するよ」
「えぇ、ここに居ようよ。きっと大丈夫だよ」
そう言いながらも、僕がその場を離れようとすると美咲も着いて来た。
美咲はいつだって僕の後ろを着いてくる。
「美咲は翔ちゃんとずっと一緒が良い」とよく言っていたのを思い出す。
美咲はあのままあそこにいれば良かったのだ。
僕が川沿いなんて行ったから、美咲も着いて来た。
美咲は前日の雨でぬかるんだ地面に足を滑らせて川に落ちた。雨のせいで増水し、流れも早くて、最悪な条件が揃っていた。
「しょ、翔ちゃっ……!」
あの時の美咲の悲痛な叫びが脳にこびりついている。
いっぱい水を飲んで、パニックの美咲はじたばたと水面を叩いて、飛沫のなかで僕に手を伸ばしていた。
「た、たすけて!」
足がガタガタと震え、耳を塞いだ。僕は泳げなかったのだ。なのに助けを呼ぶ事も出来なかった。
美咲は死んだ。僕のせいで溺れ死んだ。
その美咲が、今このノートを通して僕と話している。
会いたくて、謝りたくてここに来たというのに、ごめんという言葉以外まるで浮かんでこない。
ごめんなんかで許されるはずがないのはわかっているのに、情けなさと、美咲がここにいる嬉しさで、心の中はぐちゃぐちゃだ。
僕はひとり、腹の底から嗚咽を漏らして泣いていた。
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