13人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
文通ノート
『死んだ人に会える駅があるんだってよ』
そんな友人の言葉を信じて、僕はいま烏崎駅に向かっている。
もちろんそんな駅は実在するはずもなく、ネットで密かに噂されている都市伝説の一つだ。
そこに行ける条件は、八月の良く晴れた日の夕方。
車両に自分だけが乗車しているタイミングで、目を瞑ったまま六つの駅が過ぎるのを待つ。
ひと言も喋ってはならない。
次第に音が遠のくが、決して目を開けてはいけない。
音が消えて十数える。ドアが開く音を合図に目を開ける、というものだ。
クラスメイトの柏木が言っていた事を頭の中で思い出しながら、駅を数えていた六本目の指を折る。
揺れる度にがたんがたんと鳴っていた無機質な音が遠のいていく。
いち、に、さん、し、ご、ろく、
瞼越しに感じていた夕焼けの光までもが遠のき、数えるのを止めそうになった。
なな、はち、きゅう、じゅう。
変わらず瞼の裏は真っ暗だ。トンネルにでも入ったのだろうか。
無音と暗闇に不安が押し寄せる。膝の上で強く握った拳に汗がじっとりと滲む。
さっきまでエアコンが効いていたはずなのに、ムッとした空気で額にも汗が浮き出す。
突如、ざざっという砂嵐のような、とてつもなく不快な耳鳴りがして、目を閉じたまま耳を抑えた。
キィー……
扉が開く音に、そっと目を開ける。
真っ暗だと思っていたそこは、さっきと変わらない柿色の夕空が広がっていた。
最初のコメントを投稿しよう!