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「…もう決めてるの? そんなはっきり?」 「うん。うちの店好きだし、 親も好きにすればいいって言ってるし」 「それ、多分別の意味…… でもそっちでもいいのか。あー、 身近にしっかり決めてる子がいるって、 焦る…」 どこか悔しげに言ってから、 はっとして秋空へ向けた視線を下ろす。 「栗子……まさかあんたも…?」 「あ、えぇっと。少しずつ考えてはいるんだけど」 「よかった! わたし、 絶対あんたより先に将来展望描いてみせる!」 どれだけぼんやりしてると思われてるんだろうか、 私は。 反論したい一方で、将来がぼやけているのは確かなのでとりあえずこらえる。 美沙ちゃんの言葉に焦る気持ちも、 よかったと叫んだ心境も、 どちらもわからなくはなかった。 変わらなければいいと思ったことはないけれど、 先を描くことがまだ少し、日常からずれている。 取り巻く日々に親しみすぎて、 この時間をずっと踏みしめていられるのではないかと、そんなことを感じる自分が時々いる。 でも、時間はいつだって進むものだ。 何かが動けばいろいろなものも一緒に変わって、 きっと元には戻らない。 「……将来かぁ」 アスファルトから視線を上げる。 雲一つない晴天が、なんだかとても広かった。
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