鬼とサボテン

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先程同様突き出すも、今度は意図が伝わらなかったのでこわばる口をこじ開けた。 「こっ、ここっこれっ、 植物用の栄養剤なんですけどっ、 こ、この前のお詫びに!  あ、もう一個あります!」 取り出したのは栄養剤のアンプル十個セット。 鞄には言葉通り、もう一セットが入っている。 楓とて、何の準備もなしに再訪はしない。 この三日間、 主にネット情報ながら “異形さん” を調べたのだ。 店の商品を傷つけた場合、 多く “彼ら” の社会では、 弁償や買い取りは通用しない。 誠意を見せるなら修復方法を提供するのが肝要で、 そのためならば比較的再生しやすい指や尻尾くらい切り渡すことも…… つまり「土に埋まって肥料になる」のは、彼らの常識に照らせば真っ当な謝罪方法になるのだ。 が、楓が(なら)っても骨になるのがオチなので、 苦肉の策でこれを持ってきた次第だった。 カリフラワー店員はアンプルと楓を交互に見比べて手を出さない。 意図が汲めないというよりは、突き出された物が正体不明すぎて受け取れないと言いたげだ。 楓も楓で、 緊張のあまりまるで爆発物のようにアンプルを掲げ持ちながら、じりじりと店員へ歩を進める。 もう片手には、 サボテンの鉢を起爆装置のように握りしめて。 「……あっ、あたしも……、 あの時ちゃんと、謝れなくて……後悔したので」 再びの静寂はたっぷり二十秒ほど続いた。 それから、店員の両手がおそるおそる、 楓に向かって伸ばされた。
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