鬼とサボテン

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** 「あの、僕らの店は大抵、ばら売りなんです。 体格とか、手足の数に幅があるので、 まとめ売りより対応しやすくて。それに、 人間さんのお客様にも買いやすいかなって」 「あ、この子達の説明は僕が書いてるんです。 まだ店長ほどじゃないですけど、 境界地区で働くなら、 僕も人間さんの文字くらい勉強しないとって…… あっ、それから、 うちの子達は主に薬とか携帯食料になるんです! あと、コビト族は花や葉陰に家を造るので、 住居としても……」 栄養剤をすぐ使いに行くかと思ったのに、 カリフラワー青年はそのまま楓についてきた。 どうやら研修した接客を実践したいようで、 よく聞けば興味深い話なのだろうが、 あいにく楓は半分もまともに聞いていなかった。 自分より背の高い紫のカリフラワーがそばにいるのはやはり極めて落ち着かず、 せっかくの話も右から左へ通り抜ける。 加えて、向かっているのは店の奥だ。 品揃えも本と鞄に移り、付け焼き刃の知識をどんなに思い返しても緊張は頂点となる。 おまけに奥へ進むほど、 今日は更に見知らぬ顔と遭遇した。 棚の商品を整えていたりする彼らは、 楓と変わらぬ身体をした男女で、 彼女を見れば「いらっしゃいませ」とにこやかに声を掛けてくれる。 カリフラワー店員の緊張声とは正反対の落ち着きだが、つまり彼らも “異形さん” ということだ。 どうしてもぎこちなくなる楓に、 接客と称した追い打ちが掛かる。
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