鬼とサボテン

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店へ入ってから初めて詫びられて、 楓の注意がレジに戻る。 レトロで大振りなレジスターが小振りに見えるほどに店長は大きい。 自分のはるか頭上にある角と牙に、 一瞬意識を持っていかれる。 が、それを超えて楓が持っていかれたのは、 ──やっぱり……かっこいい……。 間近で見ればますます均整のとれたその身体。 服越しでも腕の太さや胸板の厚さがよくわかる。 全体像としては角と爪と牙が追加されるため、 いわゆる鬼の姿に近いのだが、目の前の上腕二頭筋にぽぅっとなる楓の脳にそんな像は結ばれない。 惜しむべくは、 位置の関係で上半身しか見えないことか。 「そちら、お買い上げですか」 低い声がまた話しかける。 少しかすれ気味なのも良いなぁ──と思ってから、 楓ははっと我に返った。 彼女の手には、途中で取ったサボテンが未だしっかり握られている。 「あっ! ……はい、お願いします」 こうなれば買わないわけにはいかないので、 両手で鉢を差し出す。 まぁ、元々気に入って取ったんだし── と後追いで納得しつつ、 その眼は鉢を受け取る店長の手に吸い寄せられた。 鋭い爪を商品にも楓にも触れさせない、 何とも繊細な手つき。 短刀を握っていた荒々しさが嘘のようだ。 「あっ、あの、さっきの方が先日、 お客様が見かけた鞄でして。 すごく驚かれたんですよね、すみません…… あんな乱暴なお客、 僕も滅多に会ったことないです。 でも、店長がガツンと怒って血を払わせたので、 もう大丈夫だと思います」 「血っ?」
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