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先程彼女を眼で追ったための説明だろうが、
カリフラワー青年の不意打ちに楓は飛び上がりそうになった。
レジの向こうで店長の眉がぴくりと上がり、
紫の茎が慌てたのかやや青くなる。
「あぁいやっ、違います!
その、血って言ってもあのお客様はワックスマンって種族でして、こう、
身体がワックスに似た成分でできててですね、
血液なんて革製品の傷とかすぐ直しちゃうし、身体も体内の核が無事ならどうなったって元通り……」
「はい、できました!
ラッピングはサービスです」
おろおろと墓穴を掘る店員を、
店長の声が溌剌と遮る。
楓の前にサボテンが帰ってきた。
小さな鉢がピンクの不織布で覆われ、それより濃いピンクのリボンがふんわりと結ばれている。
布の上端は絶妙な襞を寄せられて、己の両腕を誇るサボテンのポーズを引き立てていた。
額に角を生やした大男からは想像もできぬ愛らしさに、ピンク好きな楓はそれまでの動転を忘れる。
店長は牙がやんちゃな八重歯に見えそうな笑みで続けた。
「中心部へ移られるそうですね。
またこちらへ来ることがあれば、
ぜひお立ち寄りください。
人間さんにも愛される店を目指して、
頑張りますので」
おどけた仕草のガッツポーズでたくましい腕が盛り上がり、まぁ素敵、となった楓も思わず笑みをもらす。
墓穴が無事埋まったカリフラワー店員も合わせてへらりと笑い、レジの周囲にはにわかに和やかな空気が満ちた。
その空気にほぐされ、鞄から財布を出そうとして、
──お会計……お金でよかったっけ?
楓ははっとなる。
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