鬼とサボテン

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確かネットの情報では、 “異形さん” の店で貨幣はほとんど使われず、 代価は物々交換とか、 その頑強さを活かして身体の一部とか、 そういう感じだった気がする。 楓が試すには、 いろいろな意味で身の破滅を招くものばかり…… 財布を半分取り出して顔色を変えた彼女に、 しかし店長の声は優しく響いた。 「現金、使えますよ」 すべての商品に木の値札が立っていたことを、 楓はここで思い出した。 ** ショッピングモールの最上階が住宅地の向こうに見える。 三日前とは真逆の足取りで路地を歩きながら、 楓は手元に何度目かの視線を落とす。 ピンクのラッピングとふわふわの棘に包まれた、 筋肉質なサボテン。 思ったより普通のものを買っちゃったな── と思う。 これを見せて、「一人で買い物してきたよ!」と言ったところで、ママは信じてくれるかどうか。 でも。 ──いっか。ママが信じなくても、 あたしはあたしの頑張りをわかってるから。 目の高さに鉢を掲げて、大きく頷く。 やり遂げたのだという実感が、 遅れて彼女の全身を満たしていく。 と同時に、別の感覚もどっとあふれ出してきた。 楓は思わず、薄青い空に向かって息を吐く。 ──ああ……恐かったぁ……。 ぶるりと身を震わせて、 残っていた緊張を振り落とす。
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