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“人間さん” で初めてのお客が帰っていくと、 店内をたちまちため息の嵐が吹き抜けた。 従業員達が一斉に、安堵の息をついたのだ。 「ああぁ……緊張したぁ……」 カリフラワーのような頭部を持つ青年が、 店頭の棚にもたれて呻く。 その肩に、 鋭い爪を持つ手が宥めるようにのせられた。 「おー、頑張ったな紫咲(むらさき)。お疲れさん」 「て、店長……! 僕もう、 今回のことでは本当に駄目かと思いました……!」 小さな両眼を泣きそうに瞬かせる紫咲青年を、 店主は慈愛の顔で見つめる。 その表情で更に緊張が切れたのか、青年は本当に涙ぐみながら店主のエプロンの端を掴んだ。 「せっかく店長がっ、 一緒に来ないかって言ってくれたのにぃ…… よりにもよって “人間さん” を怒らせちゃって、 あの時はもう、二度と店長のところ帰れないんじゃないかって……」 「そうだな、聞いた聞いた。あの日いきなり抱きついてきたお前に散々聞かされた」 「それにっ、 もし店まで潰されることになったらと思うと、 この三日間恐くて恐くて……」 「あー、それはな。まぁ俺も注意してたし、 大丈夫だろうとは思ったがな」 開店早々 “人間さん” が来店することは、 店主にとっても予想外だった。 紫咲青年が泣きそうな顔で逃げ帰ってきたあの時から、万が一の事態に備えて街の様子には気を張っていた。 急遽おこなった研修は従業員にも緊張を広げ、 この三日はいつでも動けるようにか、 ヒトガタの姿で店頭に立つ者が多かった気がする。
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