4人が本棚に入れています
本棚に追加
終
“人間さん” で初めてのお客が帰っていくと、
店内をたちまちため息の嵐が吹き抜けた。
従業員達が一斉に、安堵の息をついたのだ。
「ああぁ……緊張したぁ……」
カリフラワーのような頭部を持つ青年が、
店頭の棚にもたれて呻く。
その肩に、
鋭い爪を持つ手が宥めるようにのせられた。
「おー、頑張ったな紫咲。お疲れさん」
「て、店長……! 僕もう、
今回のことでは本当に駄目かと思いました……!」
小さな両眼を泣きそうに瞬かせる紫咲青年を、
店主は慈愛の顔で見つめる。
その表情で更に緊張が切れたのか、青年は本当に涙ぐみながら店主のエプロンの端を掴んだ。
「せっかく店長がっ、
一緒に来ないかって言ってくれたのにぃ……
よりにもよって “人間さん” を怒らせちゃって、
あの時はもう、二度と店長のところ帰れないんじゃないかって……」
「そうだな、聞いた聞いた。あの日いきなり抱きついてきたお前に散々聞かされた」
「それにっ、
もし店まで潰されることになったらと思うと、
この三日間恐くて恐くて……」
「あー、それはな。まぁ俺も注意してたし、
大丈夫だろうとは思ったがな」
開店早々 “人間さん” が来店することは、
店主にとっても予想外だった。
紫咲青年が泣きそうな顔で逃げ帰ってきたあの時から、万が一の事態に備えて街の様子には気を張っていた。
急遽おこなった研修は従業員にも緊張を広げ、
この三日はいつでも動けるようにか、
ヒトガタの姿で店頭に立つ者が多かった気がする。
最初のコメントを投稿しよう!