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灰色モフの研究や調査は今までと随分違うものとなった。おそらく着眼点が今までと違うのだ。小さな可能性から少数意見も取り入れ無駄を恐れずに一つ一つ確認していく。特に興味深かったのは『ふたご座流星群にどんな願いをかけましたか?』のデータ。なんと1位は仕事に行きたくない、もしくはそれに付随する願いだったのだ。
非科学的だが流れ星にかけた願いが引き金になった可能性が否定できないと発表されたとき、実はホッとした人が多かったと思う。憂鬱を抱えて過ごしている人は実はいっぱいいて、こうして世界を激変するほどの現象を起こすほど切実な思いだと証明されたようなものだから。
研究者の一人は言った。
「仕事は生活、しいていえば生きることに直結しています。それをしんどいと思う人がこれほど多いとするならば今までの世界は生きづらいと言えます。低波は外向的と言われる人、表現は良いとは言えませんがリア充と呼ばれる人に強く作用し今もその活動を遮断しています。……彼らは今まで歯牙にもかけなかった人の気持ちを思い知ったといえるでしょう。未だに低波の対処法も処理の仕方もわかりません。ですが、世界が生きやすいものとなった時、低波は脅威ではなくなり、元の、いえ、今までよりも素晴らしい世界になると私は確信しています」
灰色モフはまだまだ積もる。きっと、世界中の憂鬱がなくなるまで。質量自体は軽いから徒歩でも掻きわけて進めるし、埋まっても窒息の危険はない。人によって落ち込んだり鬱になるだけだ。少しずつ動ける人が増えていく。ゆっくりと確実に。他者に歩み寄ることを思い出しながら。次の流星群にはどんな願いをかけるだろう。誰かのために祈れるだろうか。しんどいよりも明るい願いをかけれる世界になればいい。少なくとも内斗はこう言えるようになったのだから。
「最近、仕事行くの楽しいらしい」
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