全てが動き出す

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全てが動き出す

 灰色もふもふが降るようになって半月が経過して、ようやく国が動き出した。灰色もふもふは活動低下波動物質、略称では低波、巷では相変わらず灰色モフ(もふ)と名称を固定された。  どうしてこんなに行動が遅くなったかといえば国家も研究者も表に出ていた権威ある人達の大半が鬱状態に近しくなってしまい指示を出す人も、声明を出す人も停止してしまっていたからだ。このままだとこのままだと世界が滅びかねない。そこまで追い詰められて初めて影響を受けない人達が動き出したのだ。そう、内斗のように灰色モフの影響を受けない一定数の人間達がいる。  どうやら内向性の人、マイノリティの人が影響を受ける人が少ない。そんな裏付けがされ、動ける人が少しずつできることをしようと声があがりだした。  内斗はとりあえず出勤した。1時間くらい歩けば着く距離に会社はある。皮肉にも人と人を繋ぐというコンセプトで様々な企画を打ち出す仕事で、内斗は大した企画も出せずひたすら雑用を引き受けていたようなものだ。  自分でも不向きだとは思っていたが、一応入社当時は自分のような明るく活発な奴じゃなくても楽しめる企画を作れたらいいと思っていたのだ。あっという間に夢の夢だと諦めてしまったけれど。  「少し前向きだった時代はあったんだっけな」  自嘲しながらオフィスビルの3階へ。数名が出勤していた。そのうちの一人に空野がいた。目が合うと嬉しそうに笑って近寄ってくる。  「海入くん! 久しぶり! 出てこれたんだねぇ」  「お久しぶりです。……空野さん、もしかして家に帰ってない系?」  「バレる?」  「はい、なんとなく」  「一応、周辺のお店から服は調達してるんだけどな」  そういう意味じゃなく。内斗は心の中で突っ込みつつ、どうしてこんなに仕事が好きという人が影響受けていないんだろうなと首を傾げた。空野さんは既に同じような疑問を向けられていたのか苦笑を浮かべる。  「僕はさ……自分に生きている価値ないって思っているから、仕事をし続けていないと死にたくなっちゃうんだ。この状況になってなんか会社内で一番動けているみたいで、ヘンな話、今初めて充実してる気がしてる」  そんな人もいるのか。ただの仕事好きだと思っていたけれどそんなに必死で生きている人だったのか。内斗はしんどいのは自分だけじゃないよなと改めて認識し、ひとりだけ腐り続けていた自分を少し恥じた。  「色んな人が生きやすくなる企画を作れたらいいですよね」  ぽろっとそんな言葉が零れていた。優しげな雰囲気の空野さんが光が零れるような笑顔を浮かべて頷いた。  「すごくいい案だよ。いつやる? 今でしょ」  そんな一部のためにしかならないような企画と一蹴されていたものでも、そういう大半がいない今なら反対されずに行動できる。話を聞いていた周りが近寄ってきてぎこちなく発言し始めた。  「どうせなら、仕事しやすい雰囲気にもしたい、です」  「嫌だと思っていたことも書き出してみようか」  「あの! どうせ私の案なんて諦めていたことあるんですけど、聞いてもらってもいいですか?」  「もちろんだよ」
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