6.クロッカス

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ゴールデンウィーク明けの出勤日、社内の休憩室でお昼ご飯を食べていたら前の席に誰かが座った。 「仁奈、お昼に会えるの久しぶりだね」 「(こころ)、久しぶり」 声をかけてくれたのは私と同期で受付嬢の前川心まえかわ こころ。 綺麗な声と優しい笑顔で人気の社員だ。 化粧っ気のない私と違い、髪もメイクもバッチリ決めていて今日もかわいい。 「なんか仁奈と一緒にいるの落ち着く」 「ね、今や数少ない同期だから」 「それ、去年同期の寿退社多かったもんね〜」 仲のいい心と話すのは楽しい。 けど、寿退社の話題が出て気分が沈む。 私だって30までに子どもほしいからそろそろ本気出さないといけないのに、クズ男を好きになって何やってるんだろう。 ──はぁ。 思わずため息をついたら、まったく同じタイミングで心とため息が被った。 「仁奈、もしかして男関係?」 「まさか心も?」 「……うん」 「じゃあ、心からどうぞ」 どうぞと促すと、心は昼食のサンドイッチを食べながら話してくれた。 「……え、取引先の社長に迫られてる?さすがうちの会社の看板娘」 「うん……悪い人じゃないんだけど、結構強引に話進めるから困ってて」 「困ってるって言いつつにやけてますけど? ねえ、ぶっちゃけ満更でもないのでは?」 「……実は学生時代から好きだった人……」 「それはおめでとう。結婚式には呼んで」 「まだ気が早いって、付き合ってもないから。 それにお金持ってたら、寄ってくる子はたくさんいるだろうし……」 その悩み、分かるなあ。 見えない影に怯えるのはつらいよね。 心には私と同じ思いをしてほしくないから幸せになってほしい。 「で、仁奈はなんのため息?」 「簡潔に言うと、クズ男に引っかかって関係がずるずる続いてる感じ……」 同情してしまったせいか、私はこの時初めて自分の置かれた状況について語った。
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