6.クロッカス

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「うえっ、佐久間さん」 軟派な男が嫌いな心は露骨に嫌な反応を示す。 「うえって何?もっとかわいい反応してよ」 嫌がられてるのに佐久間は心に接近して、その綺麗な手元を眺める。 手入れされた心の指先と、ネイルもしていないかさついた私の手。 比べられるのが怖くて、机の下に手を隠した。 「前川さんネイル変えた?かわいい」 「ありがとうございます」 「えー、棒読み」 いつもの調子で女性社員を褒めてるだけなのに、なんでこんなモヤモヤするの? 嫌だ、この場から早く離れたい。 「それで、佐久間さんは私たちに何か御用でしょうか?」 「遠藤さんにこれお願いしようと思って。広報部の人数分コピーして広報に渡して」 「分かりました」 佐久間は手に持っていた書類を私の目の前に出す。 顔を上げると社内でよく見る愛想笑いの佐久間がいた。 ……その作り笑顔、嫌い。 「佐久間さんってほんと調子いいよね」 佐久間がいなくなってから、心はヒソヒソ話しかけてきた。 「私にはご機嫌とりしてくるのに、仁奈にはただ一言コピーよろしくって。 仁奈のかわいさが分からないやつに機嫌取られたくないんだけど。ないわー、アイツ」 「……だよね」 心はそう言うけど、私としてありがたい。 佐久間と一緒にいたらボロが出そうだから、できるだけ関わらないでほしい。 ボロが出て職場の人に怪しまれたら、それこそ佐久間に嫌われてしまいそうで怖い。
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