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11
いい加減、この子供部屋用ベッドに磔にされることに抵抗がなくなったのは、本格的にやばいだろうなあ、と鷹彦はぼんやり考える。
まだあんな、触れるキスしかしたことがない。薄い唇を割り開いて舌をねじ込んでやる。
「⁉ んんっ、うぅ……ふ……」
妙にませていて大人相手に優位に立とうとする生意気で。そんな青真が一瞬で、ほんの十二歳の子供には強すぎる刺激に簡単に蕩ける〝少年〟に――堕ちる。
「ね、今日はお前も……脱げよな」
「ん……」
外にばかりいて日焼けしていても、本来は色白なのだと知る。抱きかかえるように触れた背中の肌は微かに湿り、鷹彦の掌に吸い付く。
「お前の身体、こんなに綺麗なんだから……自分で傷付けるのとかさ、やめろよマジで」
「……」
無言の空隙に、青真の髪を伝って鷹彦の胸板に落ちた汗がやけに生温かい。
「……でしょ」
「何? 青真」
「宝田さんが俺の相手してくれるのは、俺が、子供だからでしょう」
今度は鷹彦に触れる欠けた爪を載せた指から落ちる、それは汗か、涙か。
「俺が子供じゃなくなれば、宝田さんは俺に興味なんかなくして、見放すんだ――兄貴を、見放したように」
違う。
何も言わずに、自分勝手に、俺の手から離れていったのは、あいつの方じゃないか。
そう言って青真を突き飛ばして、そのままその動きを封じることは簡単だけれど。
でもそうじゃないなと思った。弾希を疎んじ、遠ざけたのは、自分の方だったと。何もかも、自らの失敗だったと。今、はっきりと、分かった。
「青真にはまだ、俺がそんなショタコン野郎に見えるの?」
「……違うんですか」
「俺はガキが好きなんじゃなくてさぁ。この……未完成な身体が成長していく過程が、見たいの」
「なんかそれ余計変態っすよ」
反論するでもなく、薄い身体の上、腹筋の半端な隆起に指を這わせる。その指を、じょじょに、ゆっくりと下に滑らせると、羞恥に、恍惚に、少年の平板な表情が歪んでいく。
青真は同年齢の少年たちの中では身長も高く体格に恵まれている方だが、ここはまだ発育の途上にあるなと、唇の端から片笑みが漏れる。
「ふ、う……たからださ、」
「ほら、青真も俺の、触って……青真のと一緒に握って、動かして」
擦れ合い、混ざり合う体液がいやらしい音を立てる。
「宝田さんは、ぅあ、なんで……なんでそんな、あっ、楽しそうなんですか。ふ、ぅう、気持ち悪く、ないんですか」
「なんで? んっ……気持ち、いいよ」
「……宝田さんはあんなふうに言うけど、はぁっ、俺は……別に綺麗じゃないし。ん、う……俺汚いんです」
掠れ声が時々裏返りながら、鷹彦の上に降る。
「ねえ宝田さん……俺ね、この前精通したんです」
「――っ」
それだけは、掠れも引っ繰り返りもせずに耳元に平坦に落とされた一言に、目の前に星が飛んだ。
「……だって俺ぇ、こんな、気持ちいいこと、知らなかったっ……! こわい、っ……! 大人になるのが、あなたにぃ、見てもらえなく、なるのが……あ、んんっ、なのにっ、こんな、子供じゃわかんないことばっかっ……宝田さんのせいで、知ってくんだ……!」
それは確実に、自らへの嫌悪であるはずなのに。鷹彦の素肌に涙を振り落としながらも、青真の動きはもう止められようもなく激しさを増していく。
「や、あっ……! せいまっ、まって……!」
「ぅう~~、む、むりだっ、てぇ」
殆ど同時に噴き出した二人分の白濁液が腹の上に散る。熱く、粘く。混ざった滑(ぬめ)りを通して、合わせたままの肌から乱れた呼吸が伝わる。
「ねえ青真。まだ……気持ち悪かったって思う?」
「……きもち、よかった……」
見上げた、いつもは勝気な静謐を湛える真っ直ぐな黒瞳が、涙の煌めきに今は揺れていた。
「なら青真が、自分のこと、自分の身体のこと、気持ち悪いとか、汚いとか、思わなくてもいいんだよ。もっと気持ちいいことだって、これから俺がいくらだって、教えてやるから」
汗に湿った頭を引き寄せて、赤味が差したままの耳朶に囁く。
「いつか……そうだな、じゃあ。お前が大人になったら、お前の、俺に、挿れていいしさ」
「はっ……⁉」
吃驚の声と共に上げかけられた顔は優しく押さえられる。
「俺は本気で言ってるよ。たとえ犯されても。支配されても。どんな手段を使ってでも、お前を繫ぎ留めていたい。それだけ」
眠れない。
枕元に転がしたままの携帯に手を伸ばす。
画面の明かりで、余計に眠気は遠のいていく。眠りたいのに目は冴えていく苛立ちと、思いがけずもいつも通りでいられない自分の状態が、不愉快だった。
少しの逡巡ののち、メッセージアプリを開く。「あいつ」とのトーク画面を探すが、信じられないほどスクロールしないとその名前――「市川弾希」に辿り着かなかった。
――何だよ。どんだけ連絡取ってなかったんだ。
唇の片端が上がる。でも今はそれを、無理に抑えようともしなかった。
『お前の弟も、結構上手いんだな』
それが「今」「あいつに」送るにはおよそ的外れな文面だとは分かりながら。こんな真夜中に、起きていて読むはずもないと分かりながら。
携帯を置くと布団を抜け出した。廊下の闇の中殆ど感覚だけでぺたぺたと歩を進め台所に入る。
冷蔵庫の扉を開け、それでも部屋の照明は点けない。庫内の明かり、そのあまりに狭く弱い光だけで、缶ビールを喉に流し込んだ。
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