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さて、何故に女子大生の私が、小学生を追いかけているのか──。
きっと誰も無関心で、まさか女子大生の運命の人があの小学生だとは思うまい。
追いかけながら、記憶を逆に回していく。あれはそう、二週間前のことだった。
私は行き慣れた中華料理店で、ランチの塩にんにくラーメンをすすっていた。あの店のにんにくは国産のいいやつを使っていて、おならも臭くならず、飼い猫も嫌がらない。
棚の上に置かれたテレビでは、ワイドショーをやっていた。全国各地に飛ばされる可哀想なレポーターが、こいつはいい人だろうなあってな顔で画面から笑顔を振りまいていた。
その日の特集は、『芋掘り』だった。
どこか遠い地方の話だと思っていたら、なんと市内である。と言うか、すぐ近所。歩いて行っても一時間とかからない。
レポーターが、せっせと芋掘りしている人にマイクを向けた。
『どうですか、大きいですか、重たいですか』
受けた老女は、『こんなん取れてねえ、うれしいですよ』と答えた。
さらにレポーターが、年若い男の子にマイクを向けた。
『楽しいですか、美味しそうなの取れましたか』
その瞬間──、麺をすすっていた私の箸が止まった。思わず声が出てしまった。
『何だあの芋、すごい美味しそう!』
色、形、長さ、重量感。頭から尻尾まで身が詰まって甘そうだ。あれこそ焼き芋にして食べれば極上の幸せを味わえるに違いない。
だが、待て。おそらくあの芋はすぐに調理されてしまうはずだ。焼き芋にした方が絶対に美味しいのに、スイートポテトなんて洒落たものになってしまうかも知れない。そうすると、あれに極めて近い形状の芋を探すほかはない。それはそうなんだけど、いかんせんテレビでは正確なサイズが分からない。スーパーで選んだとしても、私は確実にあの芋と比較し、本当は美味しいはずなのに物足りなく感じるだろう。
とりあえず、あの男の子の写真を撮っておこう。即座にスマホを立ち上げ、にんにくスープを一気に飲み干しながら画面を切り取った。
言い方は悪いけれど、ここら辺は色々な地方から人が来る場所ではない。芋掘り場所は名所でもないし、近所に住む方々が知り合いのつてでそこにやって来ているぐらいだと思う。ならば、あの男の子は近くに住んでいる可能性が高い。中学校の学区程度で絞り込めばいいはずだ。
私はとりあえず勘定を済ませ、店の扉を開けて靴紐を結び直した。
あの男の子を見つけるまでは、絶対に芋を食うもんか!
あれに近い芋を求め、それを脳内で変換して堪能するのだ!
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