これから降りつもるのは

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 童謡の雪やこんこの歌詞ままに多良右衛門も雪が好きな犬のようだ。家には犬小屋も置けないぐらいの狭い庭しかない故に多良右衛門は座敷犬として屋内飼いである。それ故「犬は喜び庭駆け回り」をさせてやれないのを済まなく思う。現在(いま)は柴犬でも座敷犬と見る飼い主も多い。私もその一人だ。  多良右衛門は今か今かとリードの装着を待っていた。私がリードを付けると同時に玄関に向かって走り、玄関の桟敷にちょこんと座り扉が開くのじっと待つのである。 私はリードを握り、玄関の扉を開けた。ひんやりとした風が入ってくる。多良右衛門はひんやりとした風に負けずに外に向かって一気に駆け出した。いつもであれば自分のテリトリーであるマーキング用の電信柱に向かうのだが、今回は違っていた。降りつもった雪に足を踏み入れた瞬間に回れ右、瞬時に帰宅したのである。 「どうした? 多良右衛門? もう帰るのか?」 よいしょ、私は多良右衛門を抱き上げて再び外に出た。多良右衛門を雪の上に下ろすと、これまで聞いたこともないような「ヒャン!」と言った何とも情けない鳴き声を上げながら再びの回れ右、即座に帰宅に至るのであった。  その日、多良右衛門は一切外に出ることなく一日を終えた。一切外に出ないためにトイレは全て屋内で済ませている。こんなことは多良右衛門が家にやってきたばかりのトイレの躾がされていない生後数ヶ月の時以来である。
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