これから降りつもるのは

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 翌日、雪は全て溶けてしまっていた。昨日の午前中から午後にかけて冬にしては珍しく太陽が燦々としていたからだろう。解けた雪が凍結することもなく、いつもの寒々しいだけの冬の街に戻っていた。多良右衛門であるが、普通に散歩をこなした。いつものように私が疲れる程の距離を平然と歩ききったのである。昨日の多良右衛門は何だったのだろうか。  その答えは早々にも出てしまった。その日の夜、またもや一晩雪が降り注ぎ辺りに雪が降りつもっての銀世界になった。多良右衛門は私に散歩を強請(ねだ)るのだが、雪の降りつもった玄関先に出た途端にまたもやくるりと回れ右で帰宅の途に就いたのである。 「お前、もしかして雪が嫌いなのか? 犬なのに?」 私はもしかしてと思い、多良右衛門を胸に抱いて家から少し離れた道路の上に連れていき、そこで下ろしてみた。当然、雪の降りつもったアスファルトの上である。多良右衛門は雪の上に下ろされた途端に全力で家に向かって駆け抜けて行く。そして、家に入るなりにリビングへと走り、コタツに入るのであった。無論、その日もトイレを全て室内で済ませるのであった…… 「そうかぁ、雪が嫌いかぁ? 仕方ないやつだなぁ?」 カーテンが小便臭くなるし、廊下にフンが転がっていて、処理が大変だが仕方ない。外に出たくない以上は多良右衛門の意志を尊重しよう。私はどうも多良右衛門に対して甘い。  その日の夕方、私は多良右衛門とコタツに入りながら天気予報を眺めていた。占い程度の的中率しかないとこの地方民から小馬鹿にされている気象予報士が能天気に宣った。 〈ここ一週間は南岸低気圧が温暖前線に阻まれて停滞しています。一週間は雪が降っては止んでを繰り返すお天気になりますので、風邪なぞ引かないように暖かくして下さい〉 確かに気象予報士の言う通り毎日が雪景色の天気となってしまった。私は職場が自宅の自由業故に問題がない。正直なことを言うと外への買い物とゴミ捨てと犬の散歩でしか外に出ない出不精だ。痛くも痒くもない。だが、多良右衛門が外に出ることがないのは問題だ。2月が終わるまで我慢することも考えたが、家の中をトイレ扱いされるのは迷惑だし、何より犬の運動不足は体に良くない。多良右衛門はもしかして肉球が薄いから雪が嫌いなのだろうか?
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