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「志賀、いつまでそこにいるんだ」
「あ、いた」
城崎は、私の机のところにいた。
他の机が邪魔で、城崎の姿が見えづらかっただけだった。
「おい、折り畳み傘、お前の机の引き出しの中に入ってたぞ」
「え?」
折り畳み傘をそんな場所にいれた覚えはない。
しかし、そもそも何をどこにいれたかなんて何一つ覚えちゃいない。机の引き出しの中に入っていても何もおかしいことはなかった。
教室の窓から見ても分かるくらい、外は雪が降り積もっていた。もし城崎が傘を見つけてくれなかったら、私は、傘を持たずに震えながら下校をしていただろう。
「ありがとう」
私が感謝の言葉を口にすると、城崎はそんなことを言われると思っていなかったのか、少し驚いたような顔をした。
そして、数秒後に「フフッ」と笑って、言った。
「別にお礼を言う必要はない。その代わり……」
「その代わり?」
「帰る時、その傘に俺をいれてくれ」
その言葉に、一瞬戸惑った。一瞬戸惑った後、城崎は傘を持っていないのだと理解した。
「も、もちろんいれてあげるよ」
普通に言ったつもりが、少し恥ずかしくなってかんでしまった。
折り畳み傘は小さいから二人で入ると狭いけれど、雪でぬれてしまうとかそんなこと微塵も気にしなかった。気にしていられなかった。
その時の、幸せが降り積もったような感情は多分一生忘れられないだろう。
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