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誕生(立花 月尾、火斗志)
立花(旧姓 大本)薫と加瀬二三は、小学生の頃からの親友だ。
古い借家の隣同士。小学校入学直前に薫の一家が越してきた。同じクラスで、おっとりとした二三と快活な薫は大の仲良しになった。
放課後、家の近くの公園でシロツメクサの冠を飾りあったり、2軒の家屋の間、大人がやっと通れるくらい隙間にふたりだけの場所を作ったりした。
少し身体の弱い二三は、学校を休むこともあったが薫に教わることで遅れることなく授業についていけた。薫は、二三が読む児童書を借りてから読書好きになった。近所にできた書道教室に二人で通った。二三は休みがちで辞めてしまったが、薫は通い続けた。二三との関わりが薫に与えた影響の大きさは、成長するにつれはっきりとしてくる。
別々の高校、大学へ進み、お互いが実家を離れても親交が途絶えることはなかった。
新しくできた友人には打ち明けられない悩みを、手紙に吐露したこともある。長期の休みに久しぶりに会えば、たちまち子供の頃に戻った。
薫が大学で教員免許を取り、中学校の国語教諭になったのは、小学生のとき、二三という優秀な教え子を持った経験が大きい。
そして、その中学校に立花逸郎がいた。
休学してバッグパッカーをした経験を持つ逸郎は、二歳年上だが職場では一年先輩の社会科教諭だ。どこが気に入ったのか、出会った当初から薫に猛アプローチしてきた。薫は有耶無耶にやり過ごすことのできない性格なので、きっぱり断ったが、逸郎は気にも留めない。
そのうちに薫が生徒に絡む悩みを相談し、視野の広い逸郎のアドバイスに助けられるようになった。当時、生徒による様々な問題行動に学校運営が困難だった状況も薫にはつらかった。
教職について二年後、薫は逸郎からのプロポーズを受け教師を辞めた。
決断すれば振り返らない、そんな薫らしい行動で、自分が子供時代を過ごした町に書道教室を開くことにしたのだ。
逸郎は、薫が‘先生’を続けることを応援してくれた。
翌年、二三が夫とともに転居してくると、つきあいはさらに深まり、同じ時期の出産に手を取り合って喜んだ。
そして春、二三が出産した翌週、薫はふたりの男の子の母になった。
月曜日生まれの月尾と、火曜日生まれの火斗志は別々のコットの中で、引き離された兄弟を探しているみたいに泣いた。
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