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六と双子とママたちの日々
6月。
梅雨は中休みらしく、昨日から太陽が元気だ。二三と薫はベビーカーを押して公園を散歩する。ふたりが小学生のとき遊んだ思い出のある公園だ。ひとしきりお日様と仲良くしてから薫の家に向かった。
赤ちゃんのいる暮らし。
一と二三の子は、六(りく)と名づけられた。
1+2+3 =6
冗談みたいな名前だが「六合」という言葉に、天地と四方(全宇宙)という意味があり、皆に愛される子になるようにと願いもこめた。
産まれた瞬間から愛おしく、この頃は少しふっくらとしてますます可愛い。表情が豊かになり、笑顔を見れば疲れも忘れてしまう。これまでのどんな時よりも、目まぐるしく幸せな毎日。
それでもこうして時折、気のおけない友だちと他愛もないお喋りをするのは心身をリラックスさせてくれる。子供にも母親の気分が伝わるのか、3人でいるとなんだか機嫌が良い。
「ふみ、店を手伝いたいって、はじめさんに言ったんだって?」
頂き物の新茶を飲みながら薫が切り出した。
「はじめさん、薫にも連絡したの?」
慌ててお茶を溢しそうになる。
「りくのおっぱいがそろそろミルクだけになりそうだから、ちょっとずつと思ったんだけどね。叱られちゃった。早すぎるって」
「はじめさんの言うとおりだよ。体重も妊娠前より落ちてるでしょ?体調も戻ってないんじゃない?」
薫は、子供の頃から度々具合が悪くなる二三を知っている。その目はごまかせない。
「う、うん……」
「焦って店に出なくてもやれることはあるんじゃない?手が足らないの?セツさんが来てくれてるんじゃないの?」
矢継ぎ早の質問に二三は返事もできない。
会話に出てきたセツさんとは、お店の常連さんだ。30年勤めた給食センターを定年退職したそうだ。自分一人のために作るのは面倒で、と一の作る惣菜を買いにきてくれた。二三が産休の間、仕込みの手伝いを申し出てくれてとても助かっている。
「うん、セツさんには暫く続けてもらえるよう頼むつもり。セツさんの豚汁も評判いいしね。それと、開店時間を少しだけ遅くしたから大丈夫。私は事務仕事を時々手伝わせてもらうことになったの」
「それ位ならいいけど。はじめさんの為に何かしたい気持ちはわかるよ。でも絶対に無理はダメだからね?」
「ふふっ。お母さんが三人いるみたい。はじめさんのお義姉さんも同じこと言ってた」
一は5人兄弟の末っ子で兄と姉が2人ずついる。一と二三らが暮らす町は地方の中核市だが、一の地元は3時間位離れた山間地だ。長兄と長女がそれぞれ農業を営み、次男次女も近くに住んでいる。離れて暮らす末弟がとても心配らしい。そんな弟が突然「10歳年下の二三と結婚し、二三の実家の姓を名乗る」と紹介した。長兄と一は11歳年が離れているので、二三にはまるで父親のようだった。反対されるかと身構えていたが、兄姉たちは驚いたあと、次の瞬間には二三に向かって礼を言ってくれた。
「ありがとう、ありがとう。面白みのない弟に添うてくれるなんて。きっと大事にさせるから、よろしくお願いします」
その言葉に嘘はなく、長女などは「店の手伝いなら私がいつでも代わるから」と電話がきた。とてもパワフルな女性なので本気かもしれない。
「そんなことしてもらわなくても、代わりは頼んであるから!ふみちゃんには無理なんてさせないから」
一の受け答えが焦っていて可笑しかった。
「ふみが元気でいることが、はじめさんには一番なんだからね?」
薫がまっすぐに顔を見て念を押した。
「ありがとう。忘れないようにするね」
「わかれば、よろしい」
「「あぅー、あぅー。」」
月尾と火斗志がお腹が空いたと催促し始めた。二人の間に寝かされた六は、顔の前にある自分の手を不思議そうに見ている。
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