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見慣れた長駆が玄関に入ってきて、六はその胸に飛びこんだ。
「おかえりなさい」
「ただいま……遅くなってごめん」
「ちゃんと帰ってきたから、許す……」
柔らかな春の日差しが、そのまま唇を合わせた二人を包んでいる。扉の向こうでは満開に咲いた公園の桜が、二人を祝福するようにふるふると震えていた。
その夜、この日を待ちわびていた月尾と火斗志が仕事を終えてかけつけた。
「それでは、然のやっとの帰還と新婚生活スタートを祝って……」
「「かんぱ〜い!!」」
「おい!やっとのってどういう意味だ?それに新婚って……」
「あれ?かわいい六を散々待たせて、自分の好きなことばっかしてたのは誰だっけ?晴れて一緒に暮らすんだから、新婚だろーがよ」
「月尾ってば、然は遊んでたわけじゃなくて、お互いに仕事が忙しかっただけなんだから。僕もそれでいいって言ったし。それに僕ももうすぐ三十路だからね。かわいいはおかしいから」
「六は優しすぎるんだよ。いくら仕事だからって、あんなに放ったらかしにされたんだからな。これからは勝手にフラフラさせるんじゃねえぞ」
「ごめん、ほんとに悪かったよ」
然がしゅんとして六の顔色をうかがう。
183cmの長身でゴツくはないが筋肉質な体つき。意志の強そうな目元とすっと通った鼻筋。どこから見てもイケメンなのに、六の前ではその片鱗も見られない。就職してからは仕事と資格試験の勉強に忙しく帰省しない年もあった。蔑ろにしたつもりはないが、大切にしているかと問われると反論できない。
「でも、建築士と施工管理技士のどっちも持ってるのはやっぱりすげーよ。設計事務所じゃ勉強時間を確保するのも大変だったろ。おまけにあちこちに実物見に行ってたら、こっちに帰る暇なんかなかったよな」
山中工務店に就職し、自らも施工管理技士資格を持つ火斗志が感心している。フォローしているつもりなのかもしれない。
「ほらっ、やっぱり然はすごいんだ」
大切な人が自分以外から認められるのは、思った以上に嬉しいものだ。
「これからはずっとそばにいる。六のやりたいことも全力でサポートするから」
然は、にこにこと自分を見ている六の手を握った。
「僕の、やりたいこと……?」
「『とつおいつ』やりたいんだろ?」
「「えっ、そうなのか?」」
六がぽかんと口を開けている。
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