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兄に友人の家に泊まるから心配しないようにと返信を返したところで、スマホの電源は落ちてしまった。
コンビニで泊まるのに必要なものを買ってからタクシーに乗ると千聖が言っていたとおり、あっという間に千聖のマンションに到着した。
あまり大きなマンションではなく7階建てのマンション。シンプルだがダークブラウンでシックに纏められたスタイリッシュなエントランスには学生の独り暮らしにはあまり見られないオートロックが付いているものだった。
「アイス溶けてないといいね」
と、エレベーターを待ちながら千聖が笑って理央を見た。
タクシーに乗る前に寄ったコンビニで二人はアイスクリームも買った。理央はチョコレートを選んだが、ストロベリーを選んだ千聖が可愛らしく思えて、胸の奥がぎゅっとなったことを思い出した。
エレベーターに乗って到着した千聖の部屋は単身者用の部屋ではあったが、リビングダイニングと寝室がきちんと分かれている1LDK。
部屋に入ると千聖は
「理央、先にお風呂入っておいで。僕少し仕事があるんだ」
と言って手早く理央が風呂に入れるよう準備をしてくれた。
「仕事? アルバイトですか?」
理央が尋ねると
「塾講のバイトもしてるけど、これは起業した同級生の仕事の手伝いかな」
と言ってテーブルに置いてあったノートパソコンを立ち上げた。
「えー、 すごい。もう起業した人いるんですね」
「うん。そんなにはいないけど、大学で起業する人はいるにはいるよね。ほら、もう遅いからお風呂行っておいで」
と千聖に優しく背中を押された。
それから順に二人は風呂に入った。先に風呂から上がってリビングのソファに座ってテレビを見ていた理央を見て千聖はちいさく笑った。
「ふふ。僕のじゃちょっと理央には大きかったね」
そう言って千聖から借りたスウェットを手首や足首でだぼつかせていると、小さな子供にするように、優しく折ってくれた。
理央はというと、お風呂上がりの千聖の凄まじい色気に圧倒されてぽやんと見つめるので精一杯だった。
滑らかな肌が上気していて、軽く乾かしているもののやや湿った髪はさっきまで軽く纏めていたのがほどかれて、それが耳や首筋にかかる様子が風呂上がりの爽やかだけれど甘い香りと相まって凶悪なほどに色っぽかった。
「アイス食べよっか」
ソファに座る理央のスウェットを足首の辺りで折ってくれるために理央の前に跪いていた彼が見上げて理央を誘う。
「……はい……」
答えた理央の声はみっともなく掠れて、多分とんでもなく腑抜けた顔で彼を見てしまったのだが、どうしても冷静な表情を装うことができなかった。多分さっき入ったお風呂のせいなんかじゃなく顔が赤くなっているのもわかる。
早くアイスクリームを食べて冷やしたい。そう思ってキッチンにアイスクリームを取りに向かった千聖の後ろをペタペタと歩いて追った。
「ソファで座って待っててよかったのに。ひな鳥みたいで可愛い……」
そう言って千聖はクスクス笑いながら後ろを付いてきた理央にスプーンとチョコレート味のアイスクリームを渡した。
そうして二人して子供みたいにアイスクリームを手にしてもう一度ソファに戻って二人並んで座った。
スプーンでチョコレートアイスをひと口掬って食べる
うん。これで火照った頬が少しマシになるかも。
「理央はアイスはチョコレート派?」
「はい。千聖さんはストロベリー派なんですか?」
アイスクリームのお陰で少しクールダウンされて、ドキドキと脈打つ鼓動も治まったかもしれないとホッとしながら答える。
「うん。でもストロベリーも好きだけどほんとは僕もチョコレートも同じくらいだいすき」
「え?じゃあなんで……」
コンビニのフリーザーの中には理央の買ったチョコレートアイスはまだ沢山あったと思う。
「理央とはんぶんこして食べればどっちの味も楽しめるかなって。だから……」
はい、あーん。
千聖はそう言うとピンクのアイスクリームをスプーンに掬って理央の唇の前に差し出した。
「え……?」
驚いてちいさく固まった理央に
「あれ? 理央、ストロベリーはきらい?」
と首を傾げて千聖が尋ねた。綺麗な彼から差し出されたピンク色にアイスクリームで冷やしたはずの頬が再び熱を持つのが感じられた。
「あ……、え……、その……すき、です」
恐らく真っ赤になった顔で告げると、千聖は「ああ……もう、理央は、ほんとに……」と呟いてから
「ほら、あーん、して」
ともう一度言われた。その声に導かれるままに理央がちいさく口を開けると、甘くてつめたいイチゴの香りが滑り込んできた。
「おいし?」
千聖に尋ねられて理央は頷いた。つめたいのに、あつい。なんだ、これ?
頷いた理央に千聖は深い笑みを浮かべると
「じゃあ、理央のチョコレート、ちょうだい」
と言って千聖はあーん、と理央の前で口を開けた。
否が応にも完璧なラインを描く唇と、そこから覗く赤い舌に目が奪われた。 理央の躯は信じられないくらい熱くなって手に持っているアイスクリームが溶けてしまうんじゃないかと思ってはっとした理央は急いでスプーンでチョコレート味のアイスクリームを掬って千聖の唇まで運んだ。
ただアイスクリームを食べさせ合ってるだけで、こんなの夏の夜には兄と毎晩のようにしてることのはずなのに、胸が破れそうなほど鼓動がうるさい。
「うん。やっぱこっちもおいしいね」
そうやってなんども互いの口の中にアイスクリームを運び合ってただでさえ甘いアイスクリームを甘ったるく食べさせあった。
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