優しくて知的な彼氏とサークルの合宿中我慢できなくて車でこっそりしたら、優しい彼氏が野獣になってしまった話

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 千聖も同時に線香花火を蝋燭に垂らしたので、少し震える理央の線香花火がぶつかって、炎の中で二人より一足早くキスしたみたいに見えた。  橙の玉が二人の線香花火の先に点いた。  ちりちり、ぱちりぱちり。  オレンジの火花の向こうに見える千聖があんまり綺麗なので、理央の指先はまた震えてしまった。 「あ……っ」  理央の指先のちいさな揺れを受けてぽたり、と滴が落ちるように火の玉は砂の上にじゅ、と小さな音を立てて落ちた。 「……僕の勝ちだ……」  その声に顔が上げられないでいると、そっと顎が掴まれて、これ以上ないほど柔らかくそっと唇が重なった。  唇を塞がれ、千聖に教えられたとおり鼻でそっと呼吸すると、彼の爽やかなグリーンノートが更に強く感じられて理央の心の奥が掻きむしられるみたいだった。  ふに、と触れて理央の唇の柔らかい感触を確かめて、もう一度ふに、と押し付けられる。見た目よりも熱くて厚い千聖の唇の感触に鼻の奥と瞳の淵がじんわりと熱を帯びて涙が零れてしまいそうだった。優しいキスに目眩がして、倒れないように必死に千聖のTシャツをぎゅっと掴むと転ばないように千聖の大きな掌が腰に添えられた。 「んん……」  思わず理央が声を漏らすとちゅっと恥ずかしくなるほど可愛らしい音が響いて静かに唇が離れた。  少し湿った生ぬるい空気に唇が晒されるとひどく心もとなく寂しかった。  思わず理央が火照った唇をそっと指で辿る。 「……っ」  千聖が息をのんだような気配がして理央は顔を上げたが、いつもどおり優しい目をした千聖がいた。 「もう一回やる?」  優しく笑った千聖が線香花火を差し出してくるのを理央は受け取ったが、恥ずかしくて優しい瞳と目を合わせられないまま頷いた。 もう一度、二人で線香花火に火を点ける。  じゅわりと線香花火の先が膨れる。オレンジの玉は先ほどまでより艶めかしく濡れているように見えた。ぷっくりと限界まで膨らむとぱちりと弾けた。一度弾けると立て続けに火花は激しく散り、花火を持つ指先に熱を感じる  一度交わしたキスのせいで潤んだ瞳で、ぼんやりと予想外に激しく弾ける火花を理央が眺めていると、今度は千聖の花火の先が落ちた。  スローモーションのようにゆっくりと落ちて行くように感じられたそれを眺めていると 「今度は僕の負けだね……何でも理央の言うこと聞くよ」  耳の奥に溶け込むような低い声にドキドキと心臓が激しく脈打つ。  口のなかが熱くて、舌がおかしいほどに濡れて上手く言葉が紡げる自信がなかったけれど、どうしても唇が寂しくて我慢できなかった。  「ち……千聖さん……あの……その……」  うまく言えない。  千聖はそんな理央を変に思ってはいないだろうか。顔を上げることも出来ずに唇を指先で弄りながら絞り出すような声で 「もっかい……その……キス……して欲しぃ……です……」 と理央は言った。   瞬間、波のさざめく音しか聞こえなくなった。  聞こえていなかったのだろうか、それとも変に思われただろうか。  不安に思って恐る恐る顔を上げると。 「……っうあ」  世界がくるりとひっくり返ったかと思うと、満天の星空を後ろにした千聖の顔が視界に広がった。砂浜の上に押し倒されたのだ。  蝋燭の仄かな灯りが揺らめく中、いつもとは違う彩を浮かべた千聖の瞳が見えたがその彩の意味を考えるより前に 「あかん……りお、可愛すぎるやろ……っ」  絞り出すように出された千聖の言葉遣いは、いつもは千聖が達するときにしか現れない彼が育った場所のもの。  日頃は彼が西の出身だとは思えないくらい顔を出さない彼のその言葉遣いを聞くと、彼が理性を失いかけるその瞬間を思い出して、うんと優しく教え込まれた躯の奥の気持ちのいいところが切なくじゅくり、と疼いたとき、唇が塞がれた。 「んっ……」  じゅ、っと唇を吸われて、熱い舌がぬるりと上唇と下唇が重なるラインを辿り、理央は思わず唇を薄く開いた。そこから空かさず舌が忍び込んでくる。  熱い舌が理央の咥内全てを舐め溶かしてしまうように激しく強引に動く。  いつでも優しい千聖がこんな風に強引に舌を押し込んできたことはセックスの間でさえもなかった。いつも理央の反応を丁寧に確かめてから、 それはそれは優しく舌を絡める、そんな千聖なのに。  息もできないくらいきつく舌を吸われて苦しいのに、終ぞ見せたことがなかった彼の興奮した獣のような様子が怖いと思うと同時にどろどろに溶けてしまいそうに感じてもいた。ぐっときつく手首を掴まれて砂浜に押し付けられているというのに。  心臓が壊れそうなほど脈打ち、ぞくぞくとした快感が背筋に走る。  どうなってしまうのか分からない。でもこのまま千聖の熱に飲み込まれてしまいたい。 「りお……っ」  唇の隙間から狂おしい彼の声が漏れるのとほぼ同時に。 「ちさとー! りおー! どこだー? そろそろ宿舎もどるぞー!」  三年生の千聖の同期が二人を探す声が二人の姿を隠す岩の向こうから聞こえた。  ぎくり、と二人で躯を強張らせた。  それから、本当にとても残念そうに千聖がふぅ、とため息を吐いた。  唇をそっと離すと最後に名残惜しいというように理央の唇をぺろりと舐めた。 「あっ……」  それが気持ちよくて理央が思わず声を漏らすと、 「あー……こんなん、おかしくなるやろ……っくそっ」  千聖がこれまで一度だって零したことのない悪態を吐いたものだから、思わず理央は目を真ん丸くした。  千聖は自身を落ち着かせるために、ふ、と息を漏らした。  それから、ゆっくりと瞬きする。   再び目を開けたとき、千聖の眼鏡の奥はいつもどおり穏やかに凪ぎいていた。 「ごめん、理央。怖かったね」  大きな千聖の手が砂浜に押し倒されていた理央の躯をそっと引っ張って、優しく起こす。それから優しく砂を払ってくれた千聖の瞳はもういつものとおり、優しくて理知的なものに戻っていたが、狂おしいほどに熱い掌は先ほど垣間見えた彼の姿は幻ではなかったことを理央に教えているみたいだった。 「……戻りましょうか」  なんとか出した理央の声は先ほどの快楽の名残で少し掠れていた。 「そうだね。戻ろうか」  千聖はそんな理央の二人の唾液で濡れた唇を親指で拭ってから、薄手のパーカーを脱いで理央に羽織らせた。 「……千聖さん?」  意図が分からず理央が小首を傾げると、パーカーのフードをふわりと被せられた。 「りお、すごいやらしい顔になっちゃってる」  皆に見せたくないからフードで隠して、ね?  そんなことを言ったくせに、千聖は手早く花火の後始末をすると、理央と共に騒がしい喧騒の中にするりと戻って行った。 「ごめん、待たせた?」  なんて言いながら皆の輪に戻って行く千聖はいつもどおりの落ち着いた千聖で。  先程理央が縋り付くように回した背中を三年生の女子が笑いながら軽く叩いた。彼の親友が楽しそうに肩に腕を回した。  つきり、と胸が痛む。  三年生は男女共に綺麗な人が多くて、仲もいい。  さっきまで確かに理央の傍にあった彼が一瞬でひどく遠くに行ってしまったみたいだった。  遠くから見ると千聖は大人で、理央は彼に相応しくない。  この合宿中も何度もそう思った。内緒の理央と千聖の関係。  皆に知られたら釣り合わないって責められそうだ。  そう思っても、理央から別れるなんて絶対に出来ないと思うくらいに千聖のことが理央は好きだった。  理央は手にしたゴミ袋に只管ゴミを詰め込んで、三年生の方を見ないようにして一心不乱に後片付けに没頭した。
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