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連れ立って店の外に出ると、そこにはもうサークルのメンバーは誰も居なかった。
彼はスマホに入っている連絡をいくつかチェックしながら
「みんな二次会のカラオケに流れたみたいなんだけど、君も行く?」
と理央に聞いた。
「いえ……俺はもう帰ります」
まだ高校生の雰囲気が抜けない新入生とは随分違う落ち着いた物腰から先輩であろうことが伺える彼に断りの言葉を言うと
「こんな片付けさせちゃって聞くのもアレだけど、うちのサークルには入る気はない?」
先輩が俺を覗き込むように言った。廊下で俺を一瞥して去って行ったクールさとは少し違う仕種に驚いて顔を上げる。
「サークル入るかどうかは……その…… 検討中です。テニスちゃんと出来るところがいいので。あと……居酒屋が今日初めてだったんですが思った以上に苦手だったので、俺カラオケも多分苦手だと思います……」
彼の瞳が思いの外真摯だったので、 理央は正直に答えた。
「居酒屋、初めてだったの?」
眼鏡の奥の瞳が驚いたように見開かれた。
「はい」
理央が頷くと
「じゃあ、居酒屋とかカラオケみたいな騒がしいところじゃなかったら?」
綺麗な瞳が理央に尋ねる。
「え?」
どういうことだろうと思って理央が聞き返すと
「うちのサークル、今日はこんなんだったけど、テニスはちゃんとやってるんだ。飲んで遊んでばっかりじゃないから、良かったら君にちゃんと説明させてもらいたいなと思って。 二次会のカラオケは確かに騒がしいから、 良かったら落ち着いたお店で僕に改めてうちのサークルの説明させてくれないかな?」
彼は理央にそう提案した。その目は驚くほど真剣で熱を帯びていた。こんな綺麗な大人に誘われたのなんかもちろん初めてで何と返答していいか分からずドキマギしてしまう。
「あ……えーと……あの……その……」
驚いて口ごもってしまった理央の視線に合わせて背の高い彼は少しだけ屈んだ。
「ちょっとだけ。静かなお店で話聞いてもらうだけ。遅くならないようにするから、もし二次会行きたくない理由が騒がしいところが嫌ってだけで、時間あるようだったら少しだけ付き合って? ね? お願い」
ぴったりと合わされた綺麗な、綺麗な瞳。
あまりに綺麗な大人の彼に熱心に口説かれて、理央は断る言葉が出てこなくて、こくり、と頷いた。
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