17人が本棚に入れています
本棚に追加
昨日は秋晴れだったのに、今日は本当にすごい雨だ。
傘を持つ人たちが、哀れな目で俺を見て通り過ぎていく。イカれたやつだと思われているだろう。俺はへらへらと笑って、挙動も不審だから。
でもこうしなきゃ、泣いちゃいけない。
雨に任せてみなきゃ、芸人は泣いちゃいけない。
湿ることも、暗鬱な顔をすることも、悲鳴のような思いを溢れさせることもしちゃいけない。
だって、昔、珠代が言ったんだ。
『楽しいって気持ちはね、人から与えてもらうものじゃないんだよ。自分が楽しくいれば周りも楽しくなるから。どんなときでも泣かないで、どんなときでも笑っていよう。それに徹していれば、きっと二人はうまくいく。秋也も、面白いやつだって思われるよ』
楽しかった日々。
築き上げた歴史。
同じものを食べて育った肉体──。
毎日のように「好き」は膨らんでいた。
どれだけきみを大切だと思っていたか、どれだけきみを不安にさせたか。
いつか、きみが俺を忘れ、いつか、新しい道を歩き出したときに、俺は必ず見せてあげたい。ドッと笑う観客の前で、次々に面白いことを言う俺を。
強まる雨と、止まらない涙。
身を叩く雨と、砕け散った大事な恋。
最後まで泣かなかったきみと、ただ一つの約束をも守れなかった無様な俺。
だけど、いくら自傷と言われても、これをネタにせずにはいられない。
『じゃっどん』の最高傑作は今さっき完成した。この涙は、そういう感情だけだ。
それなら、いいだろう?
(了)
最初のコメントを投稿しよう!