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第3章
赫い鋭角な三角屋根の木造家屋で隠遁生活をはじめていく日かが経過し、すっかり満開になった桜が街並みに淡い彩りをそえた頃、ようやくシーも、コテージを思わせる丸太が剥きだしの家に馴染んできた。
昼間のあいだは、彩光によって明るい1階の寝室のやわらかめのソファに寝転んで、 ──シーも同じソファでよく寝ていた── 屋根裏部屋の本棚に置いてあった祖父の蔵書から本を選んで読んでいた。それは祖父の秘密を知る手段のひとつであったが、すぐに読書の傾向に偏りがあるのがわかった。ひとつは天文に関する専門書、そしてもうひとつは祖父の青年時代を彷彿とさせる昭和以前の文学作品であった。とくに宮沢賢治の詩集や童話集、評論等が目立って多かった。
──賢治は宇宙を感じていた人だったから
オジイサンは好きだったのかな
オレはソファに寝転んで、まず詩集『春と修羅』のページを捲った。読んでいくうちに賢治の心象スケッチの言葉ひとつひとつに魅せられていったが、詩集と同名の詩篇「春の修羅」の一節、
れいろうの天の海には
聖玻璃の風が行き交ひ
の「聖玻璃の風」という耳慣れない言葉に赤線が引かれてあった。オジイサンはこの言葉をとくに着目していたのだろうか? 「聖玻璃の風」という美しい言葉を…… ──「玻璃」とは仏教で七宝のひとつ、水晶のこと──
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