第3章

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 夜になるとオレは、屋根裏部屋の本格的な白い天体望遠鏡で夜空を眺めた。本格的といってもそれなりの知識と操作技術が必要とされ、たとえば正確に焦点距離を合わせなければ、より暗い星雲や星団はとらえられなかった。 ──オレは宇宙の声を聴こうと試みた、宇宙は無限だった、すべてのはじまりであり、すべてのおわりだった──  そうやって毎晩、星空を観察し宇宙の声を聴こうと試みているうちに、オレはあることを感じはじめていた。それはまさに賢治のいう修羅(しゅら)こそが地上にいるオレ自身であり、宇宙つまり天上には「聖玻璃の風」が吹いているという実感だった。  ──ようやく宇宙の声が聴こえてくるようだった  ──おそらく賢治もオジイサンもこの風を感じていたんだ  素直に嬉しかった。  しかしながら別の渦巻く感情も湧いてきていた。確かに資本主義経済社会から距離をおき隠遁生活をはじめたオレは、賢治のいう修羅なのかもしれない。しかし宇宙に吹く「聖玻璃の風」も実感こそあれ、こうして遠くから眺めるに過ぎず手で触れることも(かな)わない。まさにオレは、天上と地上のどちらにも身のよりどころのない木偶だと思った。オレはデクノボウだった。  あるいは賢治もオジイサンも、宇宙の彼方、銀河を見つめながら同じ感情を抱いていたのだろうか?  なんだか、木偶という言葉が身近に感じられてきた。
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