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「あのカップルが帰って、次に来たお客さんがお爺さんとお孫さんなんじゃなくて?」
「いや、だってさ。お爺さんと女の子、もう食事してるよ?俺たちより後に来たのなら、まだ食事来てないはずだよ‥」
確かにその通りだ。
「取り敢えず、これ。」
さっき届いたレモネードを指差す。
彼も普段は写真を撮るのだが、この日はそんな余裕もなかったらしい。
「いただきます。」
と言ってレモネードを口にした。
わたしも携帯電話をテーブルの上に置き、レモネードのグラスを手にとる。
「はなさん。」
突然、彼がわたしをそう呼んだ。
「え?」
目の前に座る彼に目をやると、そこにいたのは彼ではなく、見知らぬ青年だった。
一体何が起こっているのかわからず、言葉が出て来ないわたしに青年は優しく話し始める。
「これから大変なことばかりかもしれないけど。でも、僕ははなさんとならどんなに苦しいことでも乗り越えていけるよ。」
誰だ。誰なんだ、この人は。
わたしを「はな」と呼び、わたしとなら乗り越えていけると、何を訳のわからないことを言っているんだ。
瞬きの回数が自然と多くなる。
取り敢えず一旦落ち着こう。
妄想好きのわたしは、もしかしたら妄想のし過ぎで頭がおかしくなってしまったのかもしれない。
落ち着けわたし。
ゴクンと喉を鳴らしレモネードを飲む。
紫色の綺麗なレモネードに魅了されていたはずのわたしは、その味がわからないほどパニックになっていた。
恐る恐る青年の顔に目を向ける。
真っ直ぐな瞳でわたしを見つめて微笑んでいる青年に、わたしは言った。
「不安だわ。わたしは生涯独身を貫かなければならないのに、イエス様に懺悔をしても許されることではないもの。」
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