サクラ咲け、未来咲け

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 東大前駅まで運んでくれたあの電車の顔つきは、笑っているように見えた。明るい緑色のラインが緩い曲線を描いていて、それがまるで笑っているかのようだった。赤ん坊の微笑みのような、優しい表情。  一気に緊張が解れた気分だ。意表を突かれて、強制的にほぐれたみたいな。いつもは南北線じゃなくて、別の東京メトロの路線を使っているから気づかなかったけど。 「っし」  俺はポケットに入れたラムネを一粒、また口に放り込むとエスカレーターから下りた。改札を通って、外に出る。朝陽が頬を優しく照らした。ぞろぞろと俺と同じ高校生たちが、本郷キャンパスを目指して歩いている。その時だけは、皆参考書から顔を上げ、前を向いていた。  さあ、ももう目前だ。やれることはやった。後は自分を信じるだけ。  頑張るぞ、俺。  頑張るぞ、俺たち。  さあ、未来が待っている。
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