底辺代理人

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***  ホームレスの男と別れた後、役人の女は会議に出席した。  実は彼女は、市役所の人間ではなかった。本当は、人工知能の研究を目的に設立された「先端人工知能技術研究センター」の研究者だったのである。  会議には、複数の省庁の官僚たちが大勢出席している。  女はプロジェクトについての説明を始めた。 「当プロジェクトは、大昔に存在した穢多(えた)非人(ひにん)の制度から着想を得たものです。人間は、自分より劣った者を見ると安心する生き物です。そこで我々は、いわゆる『穢多・非人ヒューマノイド』の開発および運用計画を立案しました。彼らには、社会の最底辺として存在してもらいます。国民たちは、そんな最底辺を見ることで、自らを肯定できるようになります。下には下がいるのだ、と」    女は官僚たちを見渡した後、続けた。 「穢多・非人ヒューマノイドたちは、現在テストの段階です。本日、そのうち一体の様子を、私が自らの目で確認して参りました。彼は、自らの体がヒューマノイドだと気づく気配はまるでありませんでした。我々によって偽造された記憶に縛られ、自らを責め続けています。自害の兆候も見られません。彼は社会の最底辺のホームレスとして、機能停止するその日まで、庶民の不満のはけ口になり続けることができるでしょう」 <終>
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