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【ダメ王女】③
「王女様、ただ今のお話は、初めて耳にすることばかりで、事務を預かるミカエラといたしましたは、大変に驚きを隠せない所存でございます」
そう言ったのはカッセル守備隊事務官ミカエラだ。司令官が到着したことを聞きつけて幹部が揃って挨拶に来た。それは、まさにマリア王女様が新司令官のマルシアス・ハウザーと部下のスザンヌを監獄に連れて行こうとしたところだった。
守備隊の副隊長カエデは、なぜ赴任したばかりの新司令官を投獄するのか王女様にお伺いを立てた。ところが王女様の話は要領を得ず、あきらかに何かを隠している感じが見え隠れしていた。そこでマルシアスに問い質してみたところ、マリア王女様は皇位継承権を失って辺境に追放されたダメ王女だという事実が明らかになったのだった。
「重ねてお尋ねさせていただきますが、この新任の司令官の話したことは、事実と解釈して差し支えないのでしょうか」
「こっちはすごく差し支えがあるんです。言わなくてもいいことをこの人たちがペラペラ喋ったんだもの」
「皇位継承権の部分も間違いありませんか。その、恐れ多くも、何と言うことか、初めて承ることでしたもので」
「みんなに知られたらマズいでしょう。だから黙っていたわけ」
「私でもびっくりしております。まして、ベルネさんやスターチさんが知ったら、どうなるでしょうか。つまりですよ、あの二人は命を懸けてお嬢様を、当時はお嬢様と名乗られてましたが、お助けしたのでした。ベルネさんはお嬢様を庇って弓の的になり、またあるときは、剣で肩を切り付けられたのでした。その後、王女様と分かって、ますます忠義を尽くそうと決心したのです」
「言われなくても分かってます」
王女様はふくれっ面だ。ミカエラが続ける。
「それがダメ王女だった・・・いえ、私が申し上げるのではなくて、この二人によるとですが、こともあろうに、辺境に追放されたお方だったとは存じ上げませんでした」
カエデは慎重に言葉を選び、王女様に失礼にならないよう遠回しに控えめにマルシアスの話を引用して語った。
「ベルネさんたちがこれを知ったら大変ですよ、王女様」
「ヤバいかな」
「王女様、大いにヤバい状況です・・・これから、もっとヤバくなります」
間もなく、城砦の緊急事態とあってアリスやロッティーたちが集まってきた。人数が増えたので新司令官のマルシアスに宛がわれた部屋では入りきれなくなった。
「王女様、誠に申し訳ないのですが、ただいまから重要な会議をおこないますので、よろしければ、そこの廊下でお待ちいただけないでしょうか」
カッセル守備隊を代表して隊長のアリスが願い出た。マリア王女様はぶつぶつ不平を言いながらもアンナ、レモンの三人で廊下に出ていった。何のことはない、王女様は会議には邪魔なので廊下に立たされてしまったのである。
「それじゃあ、王女様は、ホントは王女じゃなかったのですか」
会議を司る隊長のアリスが言った。宮廷での抗争に敗れて追放されたのだから、もう王女とは呼べないのではないか。隊長のアリスはマリア王女様を何と呼んだらよいのか考え込んでしまった。
「では、何とお呼びしましょうか」
「王女に変わりはないとしても、ダメを付ければいいんです。つまり、ダメ王女です」
新任の司令官マルシアスが得意そうに言った。
「こっちは身を挺して敵の攻撃から守ってやったというのに、あれは全部ムダだったってことじゃん。ああ、損した」
「城砦でも足手まといだし、もう、メイドの仕事なんか手伝いませんからね、これからは水汲みでも何でも一人でやってください」
ベルネとスターチが代わる代わる文句を言った。本来ならばぶっ飛ばしてやるところだが、さすがに王女様が相手ではそれはできない相談だ。
「ダメでもいいから、金さえ出してくれれば問題はない」
ベルネが王女様にも聞こえるように大声を出した。
すると、
「それがですね、王室からの月々の仕送りがストップしてしまったんです」
廊下に立っていたアンナは仕送りが途絶え、苦しい台所事情であることを打ち明けた。
「なんてことよ、ダメ王女のうえに、貧乏王女だってこと」
城砦監督のロッティーが嘆いた。
「ロッティーさんにしては理解が早いですね」
「アンナさん、変なとこで褒めないでください、誰にでも分かることです」
「ははあ、分かった。それで、最近、メイドの仕事に精を出していたわけか。早く言えば給料を稼ごうとしたんだ。そうですよね、王女様」
「えー、何の話? 」
廊下に立たされていたマリア王女様は疲れてきて腰を下ろしていた。自分の不始末の一件で隊員が集まってきたというのに話も碌に聞いていない様子だ。
「王女様がメイドの仕事を頑張った話です」
お付きのアンナが横から助け舟をだした。しかし、王女様は、
「アンナに言われて仕方なくイヤイヤ働いてたんです」
と本音を漏らすのだった。
「すいません、あの、コーイケーショーケンって何ですか」
メイドのレモンが王女様の陰から首を出した。
「また変なヤツが現れた」
司令官のマルシアス・ハウザーが呆れたように言った。このメイドは仮にも王女の側にいながら皇位継承権も知らなかったのだ。
「皇位継承権というのは王様の後継ぎの資格よ。それを失ったのだから、つまり、王様レースから落ちこぼれたってというわけ」
「なーんだ、そんなことですか、この人、女王様になるのは初めっから無理だと思いましたよ」
「さすがはレモンちゃん、私のことをよく分かってる」
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