【謎のレンガ】②

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【謎のレンガ】②

 ところが翌日、とんでもない事態が待っていた。  レンガの年代測定の結果が気になり急いで出勤した。それに、警備員のジェインは朝から勤務していると言っていたので、あさイチで顔を見られるのも楽しみだった。  さっそく警備員室を覗く。 「おはようございます、ジェインさん」 「おはよう、フェル」  元気な挨拶、にっこり笑ったジェインはまさにパーフェクトスマイルだ。しかも、フェルナンドではなくてフェルと親し気に呼んでくれた。なんと朝からラッキーなのだろう、とウキウキしながらフェルは研究室に向かった。  もし、怪しい女を見たと偽の通報したらジェインはすっ飛んでくるだろう。レンガよりも美人の研究の方が大事だ、などと思いながら研究室のドアを開けた。  ドシン・・・バタ  物が落ちる音がした。積んであった資料の山がついに崩れたのだ。そう思って部屋の照明を点けたフェルは、そこに女の姿を見つけた。 「ちょっと、君、何をしてるんだ」 「誰、アナタ」 「誰って、こっちが聞きたい・・・そうか、怪しい人とは君のことだな」  怪しいと言ったものの、フェルには怪しい女には見えなかった。なにしろ、鼻筋のスッと通った超絶美人だったからだ。年齢は二十代後半だろうか。とはいえ、侵入者には間違いない。フェルは気付かれないように机の下のボタンを押した。警備員室に直通の通報ボタンである。 「ここから出てください、不法侵入ですよ」 「レンガはどこ、あれはワタシの物だから返して・・・」  女が言い終わらないうちに警備員のジェインが部屋に飛び込んできた。 「どうしました、おっと、この人か」  素早い動きでその女の腕を掴む。 「警備室で事情を尋ねます。同行してください」  ジェインはその女性を警備室に連れて行くため抱きかかえ、それからフェルに向かって、「盗まれた物がないかどうか確かめて」と言った。    例のレンガは無事だったろうか、フェルは心配になった。昨夜は大事なレンガを金庫にしまって帰った。 「良かった・・・」  金庫を開けるとレンガはそこにあった。  侵入者の女性はレンガは自分の物だと言っていたっけ・・・彼女もレンガの研究者なのであろうか。  遺跡から発掘した遺物類は土地の所有者に属する。しかし、所有者は特定できないことが多いので、その場合は市や町の所管となる。あの女性がレンガを研究に使いたいのなら喜んで貸してもいい。研究熱心なのは大いに結構だ。彼女は美人だったから共同研究するのも悪くはないと一人で納得した。  不審な女性の侵入事件があったにも関わらず、フェルの考えはついつい横道に逸れた。ジェインが逮捕したのもカッコよかった。さすがは警備員だけのことはあるなと感心した。ジェインといい、怪しい女といい、俄かに周囲に美人が現れた。もしかしたら、この金属が埋め込まれたレンガは美しい女性を引き寄せる魔法のレンガなのかもしれない。  美人の女性と二人同時に付き合ったのでは忙しいなあ、と呟きながらレンガを撫でた。  しかし、事件はそれで終わらなかった。  警察官が来て取り調べのため警察署に連れて行こうとしたところ、その女性がトイレに行きたいと言った。女性をトイレに案内し、入り口を二人の警官が見張っていたのだが忽然として逃亡したのだった。窓は数センチしか開閉できないし、出入り口は一か所だけだ。どうやって監視の目を潜ったのだろうか。まるで壁をすり抜けたかのようだった。館内をくまなく捜索したがついに女性を発見することはできなかった。  不審者の侵入、逃亡、そんなことが続いたので、フェルはすっかり研究の続きを邪魔されてしまった。  夕方、フェルが帰宅しようとすると警備員のジェインが送ってくれることになった。念のため身辺警護である。もちろん断る理由などない。地下鉄を降りてマンションまで歩くとすっかりデート気分になった。 「家まで送りますよ。あの女が現れたら心配だから」 「夜中に侵入したのですかね、あの女性は」 「警備員が帰る時に玄関を施錠すると警備装置がオンになるのよ。誰かが建物内に隠れていたとしても、ちょっとでも動いたらセンサーに検知される。本社にも通報が入って警備員どころか警官が吹っ飛んでくる」 「それなら絶対に安心です」 「だからね、そこが変なの。見張りがいたトイレからも脱走するし、まるで透明人間みたいなヤツ。私だったらゼッタイ逃がさないよ、あの女」  侵入した女性を押さえ付けて捕まえたのはジェインだった。美人なのにどこにそんな力があったのかと思うくらいだ。 「ジェインさん、強くてカッコ良かったですよ。逮捕する時の姿が決まってました」 「警備員にはボクシングとか格闘術の特訓があるんですよ。私は格闘技の成績は抜群でした」  こんな美人の警備員だったら押し倒されたいくらいだ。 「警備員になる前はレースクイーンをやってたんです」  レースクイーンとは驚きだ。  ジェインはスマートフォンを取り出しフェルに一枚の写真を見せた。そこにはオレンジ色の超ミニスカートの衣装を着てレースクイーンのポーズをとるジェインがいた。 「可愛いでしょう、二年前だけど」 「その、かなり露出が凄い・・・何と言うか、美脚、いえ、脚が長くて、眩しいと言うか」 「これはまだおとなしい方よ。股の部分がグッと切れ上がっているのもあるの。さすがに恥ずかしいけどね、今じゃ、脚、太いし」 「・・・いえ、脚きれいです」  恥ずかしいという衣装の写真も見てみたい・・・それよりも目の前に本人がいるのだから、脚でも胸でもナマで拝見したいところだ。 「でもね、生活が厳しくって、仕方なく警備員やってるわけ。やっぱ、私にはレースクイーンとかモデルの方が似合ってるよね、フェルはどう思う」  ジェインが身体を寄せてきた。ジェインの胸に腕が触れる。素晴らしいおっぱいだ。 「それは、レースクイーンの方がお似合いかと」 「というか、その前はヤンキーだったけどね。バイクの後ろに跨って街中駆け回ってたよ」  レースクイーンで、しかも元ヤンだったとは、ますますジェインに興味を持った。こうなったら、マンションに着いてもただでは帰さないなどと、都合のいい思いを巡らせるのだった。  角を曲がるとマンションが見えてきた。  今夜は初めてのデートだから紳士的にサラッと別れよう・・・  いざとなると弱気になるフェルだった。ジェインを誘って断られたらみっともない。そもそも今夜はデートというよりは警備の仕事の延長である。仕事場にこんな美人がいてくれるだけでも幸せと言うべきだ。それでも、ハイレグの水着姿はぜひ見てみたい。下着姿もいいだろうなあ。ジェインの雰囲気からすると下着は可愛いピンクか、それとも挑発的な赤だったりするのだろうか。個人的にはグリーンのパンティが好きだ、などと想像を巡らせていると、 「待って」  ジェインがフェルの腕を取ったので、おっぱいがギュッと押し付けられた。 「あの女だわ」  街灯の陰に、研究室に侵入し、その後、行方をくらませた女性が立っていた。
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