光の想い

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光の想い

「こんにちは」 見たことのない男の人が事務所に現れた。 「どなたの家族ですか…?」 事務員が問いかけると、その男性は少し考え込んだ。 「…佐々木光に会いたいんですが…」 と言う男性の声に、事務所が静まり返った。 光が由香の息子だと皆知っていて、光が誰とも会いたくないからここへ来たはずだったからだ。 「しょ、少々おまちください!」 慌てた様子で、事務員は篤史へと電話を掛ける。 少し緊張した面持ちで篤史が現れると、事務所の空気もさらに緊張したような感じがした。 その異様な雰囲気に、男性は戸惑いながらも、 「あの、俺…、小林海斗(カイト)と言います」 と言いながら、頭を下げた。 「光の兄貴みたいな…保護者みたいな…感じで…」 と、言葉を選び、頭をかきながら答える姿を見て、 「とりあえず、私の部屋に」 と、篤史は施設長室へと案内した。 給食棟にいた由香に、その騒ぎを伝えると、光に気付かれないように施設へと入り、施設長室の見える場所に隠れた。 由香は、勇気の事を知るその男性を一目見たかった。 施設長室の中では、篤史と小林が向かい合わせでソファに座っていた。 「何故ここにいると?」 篤史は、1番気になっていた事を聞いた。 ここの施設にいることは、元夫の両親以外知らないと聞いていたからだ。 それも、本人が望んでいるからだとも。 「あいつのじいさんの家に1年通いました」 小林は、そう言って笑った。 そして、 「あいつに一言だけ言いたいだけなんです」 と言って、頭を下げた。 『俺が断る権利はないか…』 篤史は心配に思いながらも、光に玄関へ来るよう館内アナウンスをして、小林と共に玄関に向かった。 施設長室で会わせた方が良かったのかもしれない。  でも、親しくなってきてる施設の仲間が見守っている方が、光も安心して会えると思ったのだ。 そして、光の精神状態を悪化させそうだったら、すぐに帰ってもらえるよう、玄関で会わせることにした。 その小林と篤史の後ろから、静かに由香は玄関へと向かった。
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