光の戸惑い

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光の戸惑い

一方玄関では、まだ泣き続ける光の姿があった。 「大丈夫ですか?」 篤史が、そっと肩に手を置き問いかける。 光は、触れられた肩にビクッとしながらも、 「お騒がせしました…」 といい、その場を去って行った。 その後ろ姿を見つめながら、 心許せる人がいた安心感と、それが自分ではない寂しさが、篤史の心に溢れていた。 小林が帰った後の光は、上の空で仕事をしていた。 篤史が、光を施設長室へと呼び出した。 「…大丈夫ですか?」 と、優しい眼差しで光に問いかける。 そして、 「どうしたいですか?」 続けて問いかけた。  光は泣きながら、 「わからないんです…」 「どうすればいいか…」 と言い、続けて、 「ただ、小林君に会って、皆が恋しい」 「でも、僕は皆を苦しめたから…」 と言い、下を向いて黙ってしまった。  篤史は、由香の事が頭の中を過りながらも、 「会えなくて、苦しいですよね…」 「それは、あなただけじゃなく、あなたを大切に思っている人達も皆、今も辛いんじゃないですか?」 と言い、続けて 「何よりも、あなたがどうしたいかが大切ですよ」 と優しく光に伝えた。  そして、篤史は、 「気持ちが落ち着いたら、仕事に戻ってください」 と光に伝え、部屋を出ていった。 しばらくして、光が部屋を出た。 ふと、周りを見渡すと皆がチラチラとこちらを見ていた。 野次馬のような、噂話をするような雰囲気ではなく、ただただ光を心配してくれているような感じだった。 光は思った。 『ここに来て、僕は何も話していない。なのに、ここの人は温かく見守ってくれていた。一年間も…』 自分を見守ってくれていた小林に会って、ここの人達にも見守られている事に気づいた光は、ここの人達に今までの感謝と光自身のことを伝えたいと思った。 でも、ここは職場だ。 皆の前で伝えるのは、仕事中は無理があるし、話も上手くない…。 だから、光は手紙を書いて、皆に時間があるときに読んでもらうことにした。 その日の夜、施設長室へ訪れた光は、篤史に手紙を渡した。 「お世話になってる皆さんに、僕のことを伝えたくて、手紙を書きました」 そう言って、光は頭を下げ、部屋を出ていった。 篤史は、急いで由香の所へ行き、二人で手紙を読んだ。
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