2人が本棚に入れています
本棚に追加
由香の決意
給食管理棟の会議室で、篤史と由香は二人で手紙を読んでいた。
由香は、堪えきれない涙を、ハンカチで拭いながら手紙を何度も読み返した。
そして、手紙を見つめながら由香は、
「勇気を養子先へ戻せないかな…」
と、呟いた。
篤史もそれが良いとは思っていたが、由香の気持ちを考えると言い出せずにいた。
やっとそばに居てあげられるのに…
「少しずつ、前を向けるようになったら帰れるかも…」
そう呟く由香に、
「離れてしまうけど、いいのか?」
篤史は、思わず問いかけてしまった。
由香は、泣きながら、
「だって、笑顔になるんだよ、勇気が」
「そんな幸せ、ここではきっと叶えられない…」
私が母親だと名乗った所で喜ぶはずはない。
もしかしたら、私が嫌でいなくなってしまうかもしれない…
そんなことが、由香の頭の中を駆け巡った。
篤史は、由香の肩を叩き、
「これまで以上に、楽しい時間になれるように頑張ろうな」
と、笑顔で伝えると、由香は、泣き笑いの顔で頷いた。
それからしばらくして、光の行動が分かってきた由香は、会わないであろう給食管理棟の裏のベンチで、陽射しを遮るように帽子を深くかぶり、本を読んでいた。
「隣、いいですか?」
突然かけられた声に顔を上げると、光が立っていた。
驚き下を向く由香。
「ごめんなさい、嫌でしたよね」
そう言って、その場を立ち去ろうとする光に、
「座ってください!」
と、声をかけてしまった。
『駄目なのに〜』
と、頭の中では思っているのに、声をかけられた喜びの思いが勝ってしまった。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
そう、光に声をかけられ、
「はい…」
としか答えられず、由香は下を向き、本を読むフリをした。
気付くと、無言の光。
由香がチラッと、横目で見ると、携帯電話の画面をただただ見つめていた。
そこには、眠っている女の子の顔があった。
「…その子は…?」
由香は、思わず声が出てしまった。
光は、携帯電話から目を話さず、
「僕の大切な人です」
そう、迷いのない言い方で由香に伝えた。
「待っていてくれてるみたいなんです…」
光が呟いた。
由香は、黙って光の次の言葉を待った。
「会いたいけど、会っていいのかな…」
独り言のように呟く光に、
「会っていいに決まってます」
そう思わず言葉を返した。
光は、隣の人の、深くかぶる帽子の頭を思わず見つめた。
「悪いのは、あなたの父親と逃げた母親であって、あなたは何も悪くない」
「幸せになってください」
涙が溢れた由香は、帽子で顔を隠しながら頭を下げ、その場を後にした。
由香は、自分の部屋に戻りしゃがみこみ、しばらく涙が止まらなかった。
最初のコメントを投稿しよう!