晴れ晴れした日

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晴れ晴れした日

介護施設は、篤史の父親の代からのままの建物で古かったため、改築工事を行うこととなり、配水や電気設備が整うまで、入居者の人には一時的に他の所で過ごしてもらうことになった。 そして、入居者が戻る前日、朝から準備に追われている従業員にアナウンスが入った。 「本日、コーヒー屋さんが特別にお昼を用意してくれるそうです。」 「お昼は、給食管理棟の中で皆で食べましょう!」 明るい篤史の声が響き渡った。 初めての試みに、皆喜び、給食管理棟へ向かった。 由香も外の草取りをしていたのをやめ、皆と向かうことにした。 管理棟の方を見ると、入口の前が人だかりになっている。 「なんだ?なんだ?」 そんな声も聞こえる中、 歓声が響き渡った。 「光くんだぁ!」 そんな声が聞こえた由香は、人だかりを思わず掻き分けるように前へと向かった。 そこには、生まれてはじめて見た、幸せそうに微笑む勇気の姿があった。 「こんにちは、席へどうぞ」 光が一人一人にそう伝えると、光と話したくて立ち止まりそうな気持ちを押さえて、皆席へと向かった。 中に入ると、席にはお弁当とお茶が用意してあり、隅の方では、前に光に会いに来た小林という男性と、二人の女性でコーヒーの準備をしてくれていた。 皆が席につくと、篤史がみんなの顔を見渡した。 「今日は、光くんが皆さんへお礼がしたいと用意してくれました」 そう言うと、皆が拍手をして声を上げた。 光が少し前に出て、 「3年間、本当にお世話になりました。」 「今日は、家族でしているカフェの味を、皆さんにも伝えたくて持ってきました」 「前にここに会いに来てくれた小林くんと、母のような香さん、そして…、妻の葵です…」 最後は恥ずかしそうに声が小さくなりながらも皆へ紹介をした。 小林と香と葵がお辞儀をした。 そして香が前に少し出て、 「佐々木香と申します」 「この度は、本当にありがとうございました」 「たくさんの事がありましたが、今は前を見て、幸せな日々を、ここにいる皆さんとも一緒に送れたらなと思っています」 「これもご縁だと思いますので、これからも光の事よろしくお願いします」 そう言うと、小林と葵と光も一緒に頭を下げた。 大きな拍手のあと、和やかな食事会となった。
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