光との時間

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光との時間

食事も終わり、部屋の隅では、まだぎこちない光と由香が並んで座っていた。 「二人で話なよ〜!」 という葵の一声で、隅に椅子が置かれた。 そして、光と由香はこの場所に連れて行かれ、今に至る。 由香は携帯電話の画面に映る、光との二人の写真を眺めていた。 この写真も、葵の、 「光〜!お義母さんと撮るよ〜!」 の一声で撮られたものだ。 「葵さんって、元気ね」 と、由香は写真を眺め、微笑みながら光に伝えた。 光は、その由香の様子をちらっと眺めたあと、少し遠くでコーヒーを作っている葵に目をやった。 「うん。すごく元気な人だよ」 「初めて会った時から、僕が話せなくても光は光でしょって、笑ってくれた人」 「今日も、母さんも家族なんだから皆で会いたいって言ってくれたんだ」 そう言って、愛おしそうに葵を眺める光を見て、由香はすごく嬉しく思った。 「香さんも…素敵な人だね」 由香より母のような香に、少し寂しく思いながらも、そう光に伝えると、 「うん。すごく温かい人なんだ」 と言って笑った。 「今までのこと…、お互いに申し訳無く思うかもしれないけど、今は、もう一度会えたこと素直に喜んでみては?って言ってくれて…」 「そういえば、サツマイモのお粥、作ってくれたの、母さん?」 話の途中に、光が由香に問いかけた。 由香は、戸惑ったが、 「うん…、小さい頃体調悪いと食べてたから…」 と、言いづらそうに光に伝えると、 「あの時、サツマイモのお粥を見たら、すごく母さんに会いたくなったんだ」 そう、照れくさそうに光が話した。 そして、由香を見て、 「だから、母さんがここにいるかもって小林くんに言われた時、会えるかもって思ったら嬉しかったんだ」 と笑顔で伝えると、由香は少し嬉しくなり、 「ありがとう…」 と、微笑みながら答えた。 その時、香が現れ、 「光、私もお母さんと話していいかしら?」 と、光に伝えると、光は頷き葵の元へと歩き出した。 これに困ったのは由香だ。 自分より勇気を大切にしてくれているこの人に母として叶わない…。 思わず下を向いてしまう…。 「由香さん…、私と葵は光に救われました」 由香は、香のその言葉に驚き思わず顔を上げた。 「私と葵は、主人を病気で失ってから、コミュニケーション不足で顔を合わせれば言い合いだったんです…」 「でも、光が来てくれて、皆で一緒に支え合うようになり、娘とも家族になれました」 香は、そう言って微笑んだ。 「これから、一緒に家族になっていきませんな?」 香のその言葉に、由香は笑顔で頷いた。 その様子を、篤史はホッとした顔で眺めていた。
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