新たな恋

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新たな恋

勇気との生活を夢見ていた由香にとって、勇気との生活が叶えられない夢だと気付かされた現実は、何を夢見れば良いか分からなくなっていた。 沈む心のまま、養護施設の広いお風呂を無言でブラシで擦っていた。 「由香さん、暗いですねぇ…、何かありましたか?」 そう言いながら、施設長の沢井篤史(アツシ)が、由香の方へと近づいてきた。 沢井篤史は、現在会長の沢井健史の息子で、今年35歳の若手施設長だ。 人当たりも良く優しい人柄で、入居者のアイドルだ。 働く年齢層の高めのこの職場で、歳の近い篤史と由香は仲が良く、元夫の暴力は話せなかったが、離れている息子の事は、篤史に話してしていた。 「息子とね、色々あって、住めない事になったんです…」 そう由香が呟くと、篤史は眉間にシワを寄せた。 その顔を見て、 「でも、大丈夫です!」 「いつか笑って会うために、私頑張ります!」 と、由香は微笑んだ。 そんな由香を見て、篤史は、 『この人を支えたい…』 そう思っていた。 その日を境に、二人で過ごす日々が増えていき、篤史の温かな優しさに、由香は次第に惹かれていった しばらくして、由香は篤史からプロポーズされた。 本当はすごく嬉しかったのだけれど、勇気のことを思い悩み、断る勇気も出ず、保留にしてしまっていた…。 『勇気の笑顔が見れるまで待ってほしい…なんて事、どう説明すればいいのかな…』 勇気の事や元夫の事を詳しく話していない由香は、篤史へのプロポーズの返事をどう伝えようか悩んでいた。
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