思い出のお粥

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思い出のお粥

「光君、これなら食べれるんじゃないかな?」 そう言いながら、部屋の前で篤史は、閉じられたドアの向こうの光に声をかけた。 ドアが開く。 光が顔を出した。 「食欲が無くて…」 そう言いながら、サツマイモのお粥を見つめた。 何となく…少しだけ胸の奥が疼いた。 光は、無言で吸い寄せられるように、お椀に触れた。 『なんだろう…この気持ちは…』 光は、考えた。 小さい頃、風邪をひいた時食べたお粥を思い出した。 優しかった母を思い出した。 涙が溢れた。 忘れていた…、母の事を。 辛くて…、辛くて…、死んだように生きていたあの頃は、思い出さなかったのに…。 離れていった母の姿を思い出した。 『みんな…僕が居たから悲しい思いさせたんだ…、母さんも、きっと…』 そんな思いが頭を過る。 「僕…、産まれてきて良かったのかな…」 つい、口に出してしまった。 篤史は、由香の思いを伝えられないもどかしさを胸にしまい、 「少なくとも、俺は君に会えて幸せだよ」 笑ってそう伝えると、光が篤史の顔を見つめた。 「少しだけ、似てる…」 そう呟いた。 篤史が、 「似てるって?」 と問いかけると、 「僕の大切な人に少しだけ似てる」 と、少しだけ微笑んだ。 「僕を守ってくれて、僕がずっと守りたい人…」 と言いながら、また少し淋しそうな顔になった。 「もう、守れないけど…」 篤史は、少し沈んだ光を優しい眼差しで見つめながら、 「未来は誰にもわからない! さあ、食べれそうなら少しでも食べてみろ」 そう明るく伝えると、光はうなずいて、お粥の置いてあるお盆を受け取り部屋のドアを閉めた。 『頑張れ』 篤史は、ドアに向かって心の中で呟いた。
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