2日目

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2日目

一定の感覚で鳴るドサッという音で友介は目が覚めた。時計を見ると、もう11時を過ぎていた。雪は降っておらず、空は晴れ渡っていて、積もった雪は相変わらず日光を強く照り返している。寝ていた敷布団はそのままに、玄関でサンダルに足を入れ、音が鳴る方に庭をまわっていくと、屋根から雪のかたまりが勢いをつけて落下してきて、ドサッという音を立てた。見上げると、友介の祖父が屋根の上に乗っており、昨日降った雪をスコップでかきあげて下に落としていた。祖父は次の雪を庭に落とそうと振り返った拍子に友介に気づき、またハハッと笑った。 夏にこの家に来た時も冬に来た時も祖父だけはいつも庭や別荘と呼んでいる敷地内の小屋で時間を過ごしていることが多い。祖父は庭で草木の剪定(せんてい)をしていることがよくあったが、そんなに定期的にやらなくても何も変わらないのではないかと友介は訪問の度に思っていた。『コ』の字型の家の左側、文字が口を開けたように見える場所には祖父の家庭菜園とビニールハウスがあって、祖父はそこで育てる野菜を夏の訪問の時などには食卓に提供することもよくあった。 しばらく祖父を下から眺めていたが、そのうち何だか間が持たなくなって、友介が庭から部屋に戻ると、ちょうど祖母が廊下を歩いていた。 「おお、起きたか」 「うん」 友介は祖母に「こんばんは」とは言えるのに「おはよう」が言えなかった。「おはよう」はものすごく親しい間柄で使う呼びかけのように友介には思えた。朝食はいるかと聞かれ、今朝はお腹が空いていないから後で大丈夫だと答えると、祖母は冷蔵庫の中にまた寿司を置いているからお腹が空いたら食べなさいと言った。 いつも祖父母の家を訪問する時は、昼間は居間で父や母とボーっとテレビを見ながら、気づけば日が暮れ、温泉に行き、戻ってくると既に台所では祖母が料理をする音が聞こえ始め、東京にいるときよりも沢山の皿が食卓に並べられ、それを食べながら静かに会話をして祖父母が寝室に入って、という本当に単調で、それでいて友介にとってはとても心地よい時間の流れの繰り返しだった。 友介は今回も居間でテレビを見ながら時間を過ごそうかと、ここに来る前は思っていたが、自分ひとりで居間にいるとなんだか間が持たないような気がして、布団が敷かれた自分の寝室にこもって東京から持ってきた宿題に少しだけ手を付けることにした。漫画本の続きをどうして新幹線からローカル線への乗り換え駅で買わなかったのかと後悔したが、それは駅まで迎えに来てくれた祖父をいきなり駅の本屋で待たせることに気が引けたからだった。 宿題は主に数学と英語で他の教科はどれも少しずつだった。東京に戻ってからも冬休みは数日あるので、他の教科の宿題は東京に置いてきた。友介は数学はどうにも苦手で、それに比べれば英語は出来る方だったので、まずは英語から取り掛かろうと宿題の冊子を机に広げた。寝室には椅子がなく、座布団をお尻の下に敷いた。机の脚も胡坐(あぐら)をかいた時にしっくり来るような高さで友介は畳の部屋で座布団の上に胡坐をかき、高級そうな木造の低い机の上で勉学に励むかたちとなった自分を文豪と重ねてクスっと笑った。しかも、窓の外を見れば雪がはらはらと降り始めていた。友介は国語の宿題を東京に置いてきたことを悔やんだ。国語の宿題は俳句を作り、その句に込めた思いや考えをプリントに書き込んで提出するという内容で、和室から雪を眺めているこの瞬間はその宿題を完成させるために用意された時間に思えた。 英語の宿題は最初は非常に易しかったところから、ページをめくるごとに難易度を増していき、8ページに差し掛かったところで、全く分からない問題が出てきた。英単語を強引に並べ替える気力を失った友介はお尻を座布団につけたまま身体を後ろに倒し、仰向けになって伸びをした。雪は友介が宿題をしている間も、降ったり止んだりを繰り返していた。時計を見るともう13時が近かったので、次に雪が止んだら、温泉に行くのもかねて散歩に出ようと友介は思った。
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