6人が本棚に入れています
本棚に追加
ミラはそんな彼を横目に見ながら口をとがらせる。
「足をくじくだけで取引をしようなんてどうかしてるね、あの人。ルーレットでもわりと軽い悲劇だっていうのに」
「悲劇商店はそういう場所だ。仕方ないだろ」
人生とは不幸と幸福が順々にめぐってくる。
『悲劇商店』は人間の不幸を執行する場所だ。
例えば先ほどの青年は明日何かしらの災難に見舞われることが決まっていた。
その不幸な出来事はルーレットで決められ、ミラの仕事はあらかじめ抽選の結果をタグをつけて本人に知らせることだ。
彼らにしか見えないタグには未来に起こる不幸と「取引所」としてこの店の住所が載っている。抽選により決まったこれからの不運に納得しないならば店長と取引することが許されているのだ。
でも、とミラはちらりとローガンを見る。彼には欲がない。だからこそ取引が成功するのは稀で、数えるほどしか見たことがなかった。とはいえ、ミラ自身も彼と取引を成功させた一人ではあるが。
「おいミラ、何ボーッとしてる?
今日の仕事はまだ終わってないぞ」
「はいはい、じゃあはやくルーレットやってよ」
ミラがそう言ってやると彼はムッとしたようにルーレットを回し始めた。
ルーレットには0から36まで37個の数字がある。つまりは不幸のレベルは37段階あって0がでたら「死」、それ以外だと数字が大きくなるほど辛い悲劇が待ち受けていた。
ちなみに今回は10歳の男の子の不幸を決めている。5から7くらいの目だとこちらもやりやすいからそれくらいが出てほしいな、と思いつつも神様はなかなかに意地が悪く、わずか10歳の男の子に惨い裁きを与えたのだ。
「……36⁉」
「死」を除いて最も重い不幸、それがこの数字には込められている。むしろミラたちにとっては0よりも厄介な数字だ。
そう思ったのはローガンも同じらしく「最悪」とため息交じりにそんな言葉を吐いた。ミラは彼にそっと口を開く。
最初のコメントを投稿しよう!