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「出勤簿の提出は明日の午前中におねがいします。他のみんなは提出済みです」
上司の言葉に、先輩が眉をひそめた。
「えっ?もう提出したの?」
ギクッ。声のトーンがいつもより低い。まるで自分だけ知らされず教えてくれなかったことを責めるニュアンスを含んでいた。
「はい。先程先輩が部長と打ち合わせで離席している時に、わたしたちにお声掛け頂いたので、その場で提出しました」
「ふ〜ん」
ホッ。機嫌は損なわなかったみたい。
先輩は喜怒哀楽がはっきりした人だ。職場での何気ない会話で、はっきりとした怒りや嘆きを目の当たりにしたのは、人生初めてかもしれない。
今まで一方的に嫌われたり意地悪をされたりすることはあった。
先輩は向かい合わせの席での会話途中に、突然無言になったりシカトされたりして、露骨な切り替えに対処出来ないこともある。
勿論、自分が仕事を間違えたりしたときは、お詫び訂正するしかないし、責められるのも信頼してくれたからだと思ってる。
でも、仕事とは無関係なことや自分が関与していないことで不機嫌になり、矢面に立たされることもある。
「おはようございます」
「………」
わたし何かしましたか?まだ挨拶しかしていませんが。
「先輩。A社へ封書送付しますが、期日記載しますか?」
「はい」
「事由はそのままお伝えしますが、パンフレット同封しますか?」
「………」
無回答は否定と解釈。
手紙を仕上げて、上司に不備がないか確認してもらう。
「封書の手紙確認願います」
「詳細ないなら、パンフレット同封したほうがいいと思います」
デスヨネー。先輩は別の仕事に集中している。
「わかりました。一文添えて同封します」
「お願いします」
仕事で二度手間になるのが歯がゆい。連携取りづらいのが、仕事する上で効率が悪いと思う。
結局。昼休み時間に仕事以外の話しをして、何とか通常モードになった。
いつまで耐えられるのだろうか。見上げた空から落ちてくる雪。
今日は一段と冷え込むって天気予報が告げていたっけ。
感情の起伏に振り回されている自分。はっきり言い返そうにも、原因を言わないので対処出来ない。どうしようもない。
雪は嘲笑うように容赦なく、降り続けている。
「寒っ」
まるで降り積もる雪のように、心の奥底に重なってゆく気持ちはどうすればいい?
「辞めよう」
こうして就活を始めたが、いつか訪れる雪解けのように、この気持ちも溶けてなくなるだろうか。
(完)
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