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りかいちゃんは”みすてりぃたんていだん”のリーダーです。
お気に入りのうさみみがついた虫メガネを握って、ピンクの鳥うち帽子をかぶって、幼稚園で仲良しのしょーむくん、まとちゃんと一緒に、毎日たんていごっこをしています。
「みなのしゅう、よくあつまった。これより、みすてりぃたんていだんがしゅつどうする!」
土曜日の朝、りかいちゃんとその友達は、家の向かいにある公園に集まりました。滑り台や砂場遊びには目もくれず、今日もたんていごっこです。
「……でもりかいちゃん、いまはなんにもおきてないよ」
しょーむくんが少し疲れたようなため息をつきました。
「たんていごっこもあきたよ」
「しょーむ! じけんをまえににげだすとはなにごとだ!」
びしっと愛用の虫メガネをかざして、りかいちゃんは帰ろうとするしょーむくんを止めます。
「ねえりかいちゃん、たんていはじけんをかいけつするひとだよね?」
「そうだ!」
「けいじもじけんをかいけつするひとだよね?」
「そうだ!」
「たんていとけいじって、なにがちがうの?」
「む……」
大変な謎に突きあたりました。
りかいちゃんは腕を組んで考えます。
「むむむ……りかいのパパはたんていだが、さつじんじけんはおわないといっていた」
「たんていはけいさつじゃないからね」
「だがおきゃくからのいらいで、わるいひとのあとをつけて、わるいことをみつけるのがしごとだ」
「たいほはできないの?」
「む……」
「たんていってじみだよね」
「じみじゃない! たんていのほうがすごい!」
「なんで?」
「それは……」
りかいちゃんは口ごもります。
これ以上、探偵がすごい理由を思いつかなかったからです。
「……ちょうさ、すればいいとおもうわ」
ずっと黙っていたまとちゃんが言いました。
「たんていのおしごとをびこうしてちょうさすれば、いろいろなはっけんができるんじゃないかしら」
「なるほど! さすが、りかいのじょしゅだ!」
まとちゃんがワンピースの裾を掴んでお姫様のおじぎをしました。
「みすてりぃたんていだん、しょくん! これより、"たんていはけいじよりすごいじけん".をちょうさする! どようびのあさ、たんていじむしょにしゅうごうだ!」
「……たんていをびこうって……だいじょうぶなのかな……?」
しょーむくんは不安そうにつぶやきました。
*〜*〜*〜*〜*〜*
さあ、あくる日曜日。
りかいちゃん、しょーむくん、まとちゃんは、りかいちゃんパパの探偵事務所の近くに集まりました。本当は公園以外で遊ぶことはダメと言われていますが、りかいはたまにパパの探偵事務所に行っているので、道に迷うことはありませんでした。
「ねえやっぱりやめようよ」
怯えるように肩を震わせるしょーむくんに、りかいちゃんは強く言い返します。
「しょーむはいくじなしか」
「ちがうよ! ぼくはおしごとのじゃまをしちゃいけないとおもって……」
「しっ! おおきなこえをだすな! パパにきづかれる」
すると、りかいちゃんのパパが口笛を吹きながら事務所を出てきました。三人はさっと向かいの建物の影に隠れました。
「はんにんがうごいた。おうぞ!」
「りかいちゃん、たんていははんにんじゃないとおもうよ……」
どうやらパパは歩いてどこかに行くようです。
三人もパパに気づかれないように、静かに歩き出しました。
「りかいちゃんのパパ、どこにいくのかな」
と、しょーむくん。
「きのうは、ひとり、さがすいらいをしてきたといっていた」
と、りかいちゃん。
「さがすって、だれを?」
と、まとちゃん。
「こいびとだ。たぶんしっそうじけんだ」
「ゆうかいされたの?」
まとちゃんが首を傾げます。
「もしわるいひとにつかまっていたら、パパをてつだってたすけだす!」
「ダメだよ。りかいちゃんのパパはおしごとだけど、ぼくたちでたすけだすのはあぶないよ」
しょーむくんは冷静でした。
「それに、もしじけんだったら、つーほーしないと」
しょーむくんの言葉に、りかいちゃんはにやりと笑って、黒いスマートフォンをふるふるとちらつかせました。
「これ、ママのスマホ。もってきた」
実はいつも、りかいちゃんは遊びに行く時にスマホを持っています。
「とおくまでもってきてだいじょうぶなの?」
まとちゃんが心配しますが、
「ママにきょかもらった。でんわのかけかたもしってるから、だいじょうぶ。りかいにぬかりなし」
りかいちゃんはスマホについたネックストラップを首にかけて、胸を張りました。
……ママは少し楽観的なところがあるので、まさかパパの後をつけているなんて、思ってもいないでしょうが。
りかいちゃんたちは尾行を続けます。パパはどかどかと少し偉そうに歩きながら、コンビニに入って行きました。
買ったものは、250mLのお茶、タバコ、カステラパンのようです。
りかいちゃんが「324えん……」とつぶやきました。
「あれはおひるかな?」と、しょーむくん。
「カステラパン、パパがたべるとしらなかった。びこうしながらたべるのか?」
「はりこみは、あんぱんとぎゅーにゅー、じゃないかしら?」まとちゃんが言うと、「それはけいじのおひるだよ」と、しょーむくん。
「だからたぶん、たんていのばあいは、カステラパンとおちゃなんだよ」
「む、なるほど。パパはたんていだからカステラパンをたべるのか」と、りかいちゃんが頷きます。
「ひとつ、けいじとちがうことが、かいけつした。"たんていはカステラパンとおちゃでびこうする"……」
りかいちゃんはいつも持ち歩いている、聞き込み用のメモにわかったことを記しました。
「む? でもタバコはなんだ?」とりかいちゃん。
少し間をおいて、「ぼくのおとうさんもすうから、たぶん、けいじとたんていにはひつようなものだよ」と、しょーむくんが答えました。
「なるほど。"けいじとたんていはたばこをかう"」
りかいちゃんはノートに一通り書き込むと、パタンと閉じてしまいます。
パパはコンビニを出て、ずんずんと駅に向かいました。
電車に乗るのかと思って、りかいちゃんは慌ててICカードを用意します。
「しょーむ、まと、おかねはあるか?」
「おさつとこぜにが、ちょっとだけ」としょーむくん。
「もってないわ」とまとちゃん。
「なら、りかいとしょーむはじぶんでかって、まとちゃんはすきをついてこっそりのるのだ」
しょーむくんがびっくりします。
「タダのりははんざいだからだめだよ! ぼくがまとちゃんのぶんをはらう!」
「そうか、ならたのむ。りかいのICカードは、168円しかない」
しょーむくんは少し腑に落ちないような顔をしますが、「わかったよ」と頷きました。
「でんしゃは、とおくにいくほどおかねがかかる。それでもいくか?」
りかいちゃんの言葉に、しょーむくんとまとちゃんは賛同しました。
しょーむくんは駅員さんに話しかけて、二枚の切符を買いました。
「はい。きっぷはぜったいなくしちゃだめだよ」
「しょーむくんありがとう」
「う、うん」
「じゅんびはできたか! しゅっぱつだー!」
いつもなら、大人と一緒に乗る電車。
りかいちゃんたちだけで乗るのは新鮮です。
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