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1話
「雪合戦したいよね」
「は?」
季節は夏。クーラーをつけていないとやってられない暑さの中眠りにつこうとしていた時唐突に彼氏の康太は言った。
「雪っていいと思わない?」
「いや別に……」
小さい頃は降れば雪だー!と盛り上がっていたが今はむしろ嫌いだ。電車は遅延するし歩きにくいわ寒いわでむしろ気分が駄々下がりになる。
何でそんなことを言い出したのかと彼の視線の先を追えば携帯でスノードーム作りの動画を見ていて何てことのない連想だったんだと笑う。
「ねえ雪降らせてよ」
「無理に決まってんでしょ」
彼は私を某アニメーション映画のキャラクターだとでも思っているのだろうか。私は某昔話のお爺さんのように花すら咲かせられないと言うのに。いや花すらというのはお爺さんにも花にも失礼か?
「魔法使いだと思ってる」
「なわけないでしょ。大体いつ魔法使ってるところ見た?」
「いつも何でも持ってるじゃん」
「それは用意が良いだけ!」
いや私が用意が良いんじゃなくて彼が用意していないだけか?
基本、携帯と財布しか持ち歩かない彼は花粉症だというのに花粉の季節になってもティッシュを持ち歩かなかった。おかげで私は何個ティッシュを献上させられたことか。
「返したんだからいいでしょ」
確かに家に行った時返してくれた。が、それが出来るなら
「持ち歩いてよね!」
「面倒だったんだもん」
「ティッシュくらいポケットに入るでしょ……」
「冬はカイロお願いね」
何度言っても聞く耳を持たずさらにはこんな調子のいいことまで言ってくる。
「いやだね」
何で彼の分まで持ち歩かなきゃいけないんだ。けれど冬になればきっと彼の予備の分までカバンに突っ込んでいってしまうんだろうなと想像できて悲しくなる。
これが惚れた弱みというやつか。
「で、話戻すけどさ、冬になって雪が降り積もったら雪合戦しようね」
「え〜?寒いじゃん」
「それが楽しいじゃん」
「濡れるし」
「それも楽しい」
「ベタベタで気持ち悪いし」
「それも楽しい」
「え〜、こたつでみかん食べてた方が楽しいよ」
もう若くないんだから、と続けようとした時いいことを思いつく。
「いいよ、やろう。雪合戦」
「本当?」
サイドランプのみで暗くなったベッドの上でも彼の目が輝いたのが分かった。
「たーだーし!」
「ただし?」
「私にカイロをねだらないこと!」
「え〜」
そんなの絶対無理じゃんと口を尖らせるもんだから笑ってしまう。
「そんなに無理なの?」
「だって1回もでしょ?普通の人でも1回は忘れるよ」
「私が康太に言われて今日はないんだって言った日ある?」
「それはなっちゃんが魔法使いだから〜」
まだ引きずっていたのか。
まあでも彼の言い分も最もではある。
「じゃあ3回までね」
「本当!?」
一時失われていた目の輝きがまた戻り単純な彼に思わず吹き出す。
「そんなにやりたいんだ」
「やりたいよ! あ、あと雪だるまは?」
「そちらは別料金となっております〜」
「ちぇっ、ケチ」
「……雪積もるといいね」
「そうだね、何回も積もったらいいなぁ」
「まだ夏だけどね」
「本当だ」
ふふっと顔を見合わせ笑い合う。
本当は寒いし濡れるしベタベタするしやりたくないけど、好きな人の喜んでいる姿を見るのは悪くないかもしれない。
今年の冬は雪が降り積もりますようになんて遅めの七夕の願いを思いながらそっと目を閉じた。
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