30.(尾藤)花屋と刑事の一年後

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 大平が尾藤を見上げ、二人の目線が交わった。  来ると思っていた。偶然なわけがない。少額の横領事件について、こんな大企業の会長が対応するなんてことはない。 「菅原、先帰ってろ」 「ええっ、何でですかぁ。私もお話ししたい」  財布から千円札を取り、菅原の手に握らせる。 「署帰る前になんか食っていいから、課長には黙ってろよ」 「やったー!」  菅原が出て行って、尾藤はもう一度座り直した。  大平はじっと尾藤を見ている。  何つう地獄だよ。尾藤は内心毒づいた。元カノの実家で、父親と対峙。  大体、読めている。  茉莉に縁談でもあったのか。娘が関係した下賎の者を、よくも傷物にしやがってと詰めたくなったのだろう。  おおかた県警の上層部にもコネがあるに違いない。また左遷になるか。しかしその方がいいかもしれない。もはや遠くに行ってしまいたい。 「一度君とお話してみたかったから、良い機会だった」  大平が静かに言った。 「娘がお世話になったそうだね」 「……」  尾藤は一年前までのことを思い出した。 「時々、娘さんに尾行をつけてたのはあなたですか」
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