30.(尾藤)花屋と刑事の一年後

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 茉莉と二人でいて、アパートの周りなんかでこちらを窺う気配に気付くことは度々あった。どう見てもプロの探偵だ。  最初は加賀谷いつきの差し金だろうかと考えていたが、茉莉の実家がどこなのか聞いてからは、茉莉の親の手配だと考えるのが自然だろうと思っていた。 「そうだ」  大平はあっさり頷いた。 「いくらなんでも、年頃の娘を放っておくわけにはいかないから、時々様子を見に行って貰った。だから、隣の部屋の住人と付き合っているらしいことも知ってたよ」 「……だから、勤め先も潰したんですか」  尾藤は低い声で聞いた。  大平硝子がフローリスト・アンに出資していたのを知ったのは、今回の横領事件があって、大平硝子の財務諸表を見たからだった。  大平硝子は出資を引き上げた。火の車だったアンはそれが決定打になって潰れたのだ。  茉莉を尾藤と別れさせるためだったのではないか。そう勘繰った。自分が茉莉から仕事を奪ったのではないか。  大平は少し肩を出し、眼鏡の上から、覗き込むようにして尾藤を見た。 「だと言ったらどうする」 「……彼女に申し訳ないです」
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