30.(尾藤)花屋と刑事の一年後

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 大平の眼鏡の奥の目がふっと細くなった。心なしか、柔らかくなったように見えた。 「確かにアンに手を回してあの子を雇って貰ったし、出資にお礼の意味が無かったとは言わない。しかし、あくまでビジネスだ。会社は私の私物ではないし、娘のために、救いようのない会社を救うなんてことはしないんだ」  素っ気なく言う。 「……そうですか」 「だからあの店が潰れたのは君の責任ではない」  二人はしばらく黙っていた。 「年上の男だなんて、どうせさっさと他の女と添うてると言ったんだがなあ」 「……は?」  大平がひとりごとのように言ったことの意味が分からず、尾藤は聞き返したが、無視だ。大平は、はあ、と溜息をついて頭を掻いた。早口で言う。 「ちなみにだね、本人の前科はさすがに困るが、私は亡くなった親御さんのことまでとやかく言わない。別にうちはやんごとなき高貴な家柄じゃないんだよ。むしろ実力だけで成り上がってきたハングリーな家系だ。ああ見えて、茉莉もそうだからね」 「はあ?」 「全くあの頑固さは誰に似たんだろうな」  全く話が読めない。尾藤が戸惑っていると、大平が腕時計に目を落とした。
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