30.(尾藤)花屋と刑事の一年後

6/12
前へ
/275ページ
次へ
「こうしちゃいられない、役員会議だ。失礼する」  大平が立ち上がるので尾藤も腰を上げたが、手振りで押し留められる。 「そのままで。じきに茉莉が来るよ」 「え、ちょっと」  尾藤は息を呑んだ。このジジイ、何を言ってるのか。  大平がさっさと居間を出て行く。  まずい。尾藤は珍しくあからさまに狼狽しながら、急いで逃げようとした。ドアノブに手をかけようとした途端、勢い良くドアが開く。ぶつかるすんでの所で身をかわした。 「あっ、ごめんなさいっ」  その声を聞いただけで、心臓が跳ねた。  ドアを開けた茉莉は大きな目で瞬きもせずに、尾藤をしっかりと見つめていた。  (茉莉……)  26歳になった茉莉は、変わらず可愛らしかった。むしろ、成熟してより美しくつややかになっていた。  髪はあの頃より少し伸びている。あの頃着なかったようなきれいなワンピースを着ている。
/275ページ

最初のコメントを投稿しよう!

619人が本棚に入れています
本棚に追加