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「カサブランカとはだいぶ印象が変わりますけど、かすみ草はどうですか?」
茉莉は、手前のバケツにたくさん入っているかすみ草に手のひらを向けた。
「ええ、かすみ草……一応白いけど。地味ですね」
女性はつまらなそうに首を傾げる。
「確かに、ちょっと地味ですけど」
茉莉はかすみ草の花首に優しく触れた。
「かすみ草って、英語だとベイビーズブレスっていうんですよ」
「ベイビーズブレス?」
「赤ちゃんの吐息です」
茉莉は、会ったこともない、今も一人きりで病院のベッドで寝ているのだろう、母親になったばかりの彼女の友人を思い浮かべる。
「お友達の方は、少しの間だとしても、赤ちゃんと離れ離れになって、きっと寂しい思いをしていらっしゃるでしょう。そんな時に赤ちゃんの吐息のような可憐な花が、お友達に寄り添ってくれないでしょうか」
女性は黙って瞬きをした。たちまち目が潤む。
「……本当ですね、その通りだわ。彼女、きっと喜んでくれる」
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