1.フローリスト・アン

5/6
前へ
/275ページ
次へ
「カサブランカとはだいぶ印象が変わりますけど、かすみ草はどうですか?」  茉莉は、手前のバケツにたくさん入っているかすみ草に手のひらを向けた。 「ええ、かすみ草……一応白いけど。地味ですね」  女性はつまらなそうに首を傾げる。 「確かに、ちょっと地味ですけど」  茉莉はかすみ草の花首に優しく触れた。 「かすみ草って、英語だとベイビーズブレスっていうんですよ」 「ベイビーズブレス?」 「赤ちゃんの吐息です」  茉莉は、会ったこともない、今も一人きりで病院のベッドで寝ているのだろう、母親になったばかりの彼女の友人を思い浮かべる。 「お友達の方は、少しの間だとしても、赤ちゃんと離れ離れになって、きっと寂しい思いをしていらっしゃるでしょう。そんな時に赤ちゃんの吐息のような可憐な花が、お友達に寄り添ってくれないでしょうか」  女性は黙って瞬きをした。たちまち目が潤む。 「……本当ですね、その通りだわ。彼女、きっと喜んでくれる」
/275ページ

最初のコメントを投稿しよう!

635人が本棚に入れています
本棚に追加