2.秋深し、隣は何をする人ぞ

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 あ。茉莉の心臓がどくんと鳴った。  黒いスーツにオールバック。 「あー、ハイハイ、そこまでね」  面倒臭そうに言った男は、隣の部屋の住人だった。 「なんだてめえ!」  坊主頭の男は叫んだが、もう一人のツーブロックが、慌てて坊主頭の腕を後ろから引いた。 「やめろ、ビトーさんだ」 「え」  ビトーと呼ばれた隣の部屋の住人は、少年とツーブロック、坊主頭の顔を見比べる。 「またナワバリ争いかよ。善良なる一般市民も巻き込んでさ、俺もいい加減大目に見れねえよ。これ、お前らのオヤジはなんつってんの?」    その声は酒焼けなのか煙草焼けなのか、ハスキーに枯れている。何も良いことを言ってないのに、不思議にその声が茉莉の胸にじんわり染み込んだ。  少年はのろのろ起き上がり、ツーブロックと坊主頭はバツが悪そうに顔を見合わせている。  その光景を眺めていた茉莉の腕を、奈津子が引っ張った。 「ほら、茉莉、行くよ!」 「え、でも」 「なんか顔役みたいなオッサン来たから大丈夫でしょ!」  本当は、もうちょっと顛末を見ていたい。奈津子に引き摺られながら、茉莉は一瞬「ビトーさん」と目が合った。
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